二人だけの約束




 朱色に染まる太陽と、暮れてゆく町並み――

 暦上では春だが、身体に吹き付ける少し冷たい風――

 吹き抜ける風に舞う桜の花弁――

 それを誰もいない屋上から、祐一は一人何気なく眺めていた。




「下校時間が過ぎたのに、屋上に残っている人発見」

「お前だってそうじゃないか」

 屋上と公舎内を繋ぐドアから聞こえてきた馴染みの声に、頭だけを回してその姿を確認

する。

 従妹で、同じ家に住んでいる同居人で、祐一がこの世で最も愛すべき人物、

「先に帰ったんじゃないのか、名雪?」

「部室の方に顔を出したら、後輩の皆に掴まっちゃったんだ」

 名雪が笑みを浮かべながら歩んできた。

 名雪の姿をチラリと確認するだけで、再び祐一は屋上から見える景色に視線を戻す。

「卒業式は明日なのに、もう泣き出しちゃう子がいたりしてビックリだったんだよ」

「ふ〜ん……。って事は名雪も一応、部長らしいことはしてたんだな」

「一応、じゃないよ〜」

 拗ねたような名雪の声に、祐一は声を出さずに笑う。

 それから、祐一と名雪は黙ったままで、数秒の沈黙が辺りを覆った。

 その沈黙を名雪が破る。

「……ねぇ、祐一」

「ん?」

「明日、卒業するんだよね。私達……」

「ああ、ここから眺める景色も今日で最後だと思って、此処に来たんだ」

「そうなんだ」

「色んな事があったよな。俺がこの街に戻ってきてから」

「うん……」





 懐かしい雪の場景と、懐かしい人達との再会――

 新しい学校への転入と、新しい学校生活――

 何時までも続くと思えた幸せと、突然来る絶望――

 そして『奇跡』――





 忘れる事が出来ない日々。

 それが脳裏によぎる。

「夕焼け見てたらさ……あいつの事、思い出したんだよ」

「あいつ?」

「趣味はタイヤキ食い逃げ。仕事はタイヤキ泥棒、だったな」

「それ、あゆちゃんが聞いたら、きっと怒るよ」

「俺は一言もあゆの事だ何て言ってないぞ」

「……もう、祐一ってば」

「ま、確かにあゆの事を思い出してたんだけどさ……
 最後に会って話をした時も夕焼けだったな……
 そしてあいつが言ったんだ。『もう、会えなくなる』みたいな事を。
 それから、本当にあゆの姿を見掛けなくなったんだ」

「そう言えば、あゆちゃん見ないね」

「実は、この夕焼けの中に溶けちゃったんじゃないかって思ったりしてな」

「……そんな事、ある訳……ないよ」

 そう答える名雪の声は、寂しげだった。

「そう言えば、真琴の奴も何時の間にか家からいなくなって……」

「……うん」

「香里も、北川とも進路が別々になっちゃったしな」

「……残念だけどね」

「結局、俺の傍に残ったのは、名雪だけか」

 呟く祐一の顔に笑みが浮かんではいるが、やはり名雪同様、寂しげであった。

「もしも、だけどな」

「?」

「俺が名雪の前から居なくなったら…………」

「駄目っ!」

 名雪が咄嗟に祐一に駆け寄り、背中から抱きついた。

 その勢いで、祐一が手にかけていた屋上の金網が、ガシャンッ! と揺れた。

「お、おい、名雪!?」

「駄目だよ……私の前から居なくなったら……
 もう嫌だよ……大好きな人がいなくなるのは……
 もしもでも……言っちゃダメだよ………」

「名雪……」

 名雪は自分の出せる限り力で、祐一を抱きしめていた。

 それはまるで、祐一を必死で逃がすまいとしているかの様だった。

(馬鹿だ、俺は……)

 迂闊だったと自分を呪う。

 センチな気分になっていた所為か、かつて名雪と交した約束を軽んじるような事を言っ

てしまうとは。

 結果、彼女を不安にさせている。

 自分を抱きしめているその手は、細かく震えているではないか。

 祐一は自分を抱きしめている名雪の手を軽く数回叩き、緩くなった所で身体を半回転さ

せて、名雪を抱きしめた。

「ゴメンな、名雪」

「あっ……」

「約束したもんな……お前の傍に居るって」 

「…………うん。
 祐一は…………祐一は何処にも行かないよね」

「当たり前だ。俺は名雪が望まなくなるまで、お前の傍に居るって決めたんだからな」

「それなら祐一は、一生私から離れないんだよ」

 一瞬の沈黙の後、

「……何だかそれ、プロポーズみたいだぞ」

「そ、そうかな?」

「なら、俺もそれ相当に相応しい返答しなきゃ駄目だよな」

「えっ?」

 祐一は、抱きしめていた名雪の身体を少し引き離し、顔を近づけた。





 夕暮れの中、また少しだけ心の距離も近付いた二人だった。





「ずっと一緒だから…………約束……だよ」

「ああ、約束だ」




<終>



あとがき  
どうも、へっぽこSS書き睦月龍一と申す者です。 ぐはぁぁぁぁっ!!(吐血)
純粋なラブラブSSにするつもりが、ちょびっとシリアスラブSSになってしまいました。
こんな物では、疾風さんをのた打ち回らせる事は不可能ですねぇ……
ちなみにこのSS、『ラブラブな話で疾風さんをのた打ち回らせよう的SS』第1弾です。  ええ、このSSは疾風さんの為のSSです。
如何でしょう、疾風さん? それでは、また第2弾でお会いしましょう!(あるのか、おい?!)

感想的れびぅ
ぐはぁああ!!(滅殺)はぁはぁ・・・もう少しでのたうち回るところだったぜ・・・!(笑)
どうも有り難う御座います。こんなへっぽこHPに・・・(笑)へっぽこと言えばエクセ・・・ごふごふん!
うーん、栞も良いけど名雪も捨てがたくなってきた。この影響されやすい性格どうにかしてくれおやっさん!(爆)
第2弾ですか、楽しみに待ってますよ〜。何時でも良いですよ〜(何気なく「送れ」と言っているらしい(爆死))
自分も、第2弾を考えて、ちゅーか、もう出来てます。あとは文章にするだけさべいびー(花輪君)短編連作っぽいのですので、定期的にお送りいたします。ではでは〜。

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