「それじゃ、行って来ます。」

玄関を出て、祐一は、白い雪道へと足を下ろした。踏みしめる音がし、足型がくっきりと残る。

「今日も、快晴・・・ってか。んでも、夜はしっかりと雪、降るんだな。」

彼の頭上には、太陽が眩しく輝いている。

「んじゃ、行くか。」

彼は、第一歩を踏み出し、歩き出した。


secret base


『明日は、ボク達の学校で待ち合わせにしようよ。』

それは、あゆの突然の提案だった。

断る理由も特に無かったので、祐一は、それを快諾した。

「そーいや、あそこにあゆを連れて行ったのも、こんな日だったよな・・・。」

誰に言うわけでもなく呟き、祐一は空を見上げた。

そして、ゆっくりと目を閉じ、昔の思い出と邂逅する。

―七年前―



「それじゃ、行って来まーす。」

「遅くならないうちに帰っていらっしゃいね。」

「うん、分かったよ秋子さん。」

にこやかに微笑む秋子に応答し、祐一は玄関を出た。

「祐一、気を付けて行って来てね。」

「ああ。」

玄関を出た所で、名雪にも声を掛けられる。

それにも返事し、祐一は水瀬家を離れて行った。





(そうだ。家を出てから暫くして、思いついたんだよな。)

『学校』への道を歩いていると、次々と、想い出達が顔を出してくる。

それらを堪能しながら、祐一は、ゆっくりと前へと進む。

次は、どんな想い出と、出会えるだろう。

そう、期待に胸を躍らせて。





「・・・あっ、祐一君。」

「今日も、時間通りに待ってたんだな。」

「だって、祐一君と遊ぶの、楽しいから。」

「そっか。」

そう言うと、祐一は、駅前のベンチへと近付き、あゆの隣に腰掛けた。

「今日は、どうするの?」

「実はもう考えてあるんだ。」

「え? 何、何?」

祐一が思わせ振りなセリフを吐くと、あゆは案の定、期待に満ちた目で、祐一ににじり寄った。

「俺が知ってる、取っておきの場所に案内してやる。」

「取っておき?」

「ああ、取っておきだ。」





(あの時は、結構どきどきしたんだよな。あゆが気に入るかどうか分からなかったし。)

『学校』へと続く道の前に立ち尽くしながら、祐一はそんな事を考えていた。

しかし、当時のそんな思いは杞憂であった事を、少年は後に知る。

「・・・さてと、つっ立ってるのも何だし、入るか。」

昔の余韻に浸り終え、祐一は中へと進んで行く。

今度は、『誰』が出迎えてくれるのだろうか。

高揚感を覚え、祐一の鼓動は一段と高鳴った。





「ねー祐一君。本当にこんな街外れに、そんな場所があるの?」

「ああ、あるぞ。」

あゆの手を引きながら、祐一は、森の中を進んで行く。

時々枝が絡まるが、物ともせず、前へと進む。

「うぐぅ・・・、髪ぼさぼさ・・・。」

「もうちょっとだから、我慢しろ。」

あゆにそう諭し、着実に、目的地へと歩いていく。

そして暫くして、一筋の光が、祐一の目を擽った。

それにより、目的地はもう少しと、確信する。

「ほら、着いたぞ―――。」





(んで二人とも、服も髪も葉っぱだらけでぼさぼさ。あゆは最初は怒ってたけど、この場所を見るなり、機嫌が良くなったんだよな。)

祐一の目の前には、二人で創った『学校』がある。

あゆの純粋な願いによって創られた、二人だけの学校が。

そして、周りを見渡す。

が、待ち人の姿は、どこにも無かった。

(まだ、あゆは来てないみたいだな・・・。)

そう結論付けると、祐一は、切り株へと腰を下ろした。

(んじゃ、あゆが来るまで・・・・。)

目を閉じる。

そして、思い起こす。

過ぎ去った、あの日を。





「うわぁ・・・。」

あゆは、思わず感嘆の声を漏らす。

それは、それほどまでに、この場所が素晴らしいと言う事を露にしている。

「どうだ? ここが俺の取っておきの場所だ。」

「うん! 凄いよ祐一君!」

どうやら、あゆは、ここを気に入ってくれたらしい。

祐一は思わず、安堵の息を漏らす。

「あ、木があるんだ・・・。」

「ああ、そうだけど。」





(意外だったよな。あゆが木登り得意だったなんて。)

自分が高所恐怖症である事を念頭から外しても、その時は、素直に感動した。

そして、気に入ってくれた事には、嬉しさを覚えた。

(今じゃ、登れなくなっちまったけどな・・・。)

自分が腰掛けている、嘗ては大木であった切り株へと視線を移す。

(ここで、色々とあったんだ・・・。)





「もう、こっち向いても良いよ。」

「ああ、分かった。」

目を覆っていた手を下ろし、反対側を向いていた体を、再び元に戻す。

「いい眺めだよね。祐一君も登ってみれば?」

「い、いいよ。高所恐怖症なんだ。」

「ふ〜ん、・・・祐一君って怖がりだね。」

あゆが茶目っ気たっぷりにそう言うと、祐一の顔が少しだけ強張った。

「今すぐ降りて来い。苛めてやるから。」

「うぐぅ、・・・、そんな事言われたら降りれないよぉ・・・。」

「あゆこそ、怖がりじゃないか。」

「うぐぅ・・・。」





(こうして思い出してみると、結構懐かしいもんなんだな・・・。)

数々の想い出が、祐一の頭を占拠していた。

思わず、顔がにやけてくる。

「それにしても、遅いなあいつ・・・、また食い逃げしてんじゃないだろうな。」

ふいっと、入り口に視線を移す。

まだ、彼女の姿は見えない。

だから祐一は、もう少しだけ、思い出に浸る事にした。





「ほらあゆ。もう遅いから帰ろうよ。」

「うぐぅ・・・、降りたら苛められるからやだもん。」

「苛めないから、降りて来い。」

「・・・本当?」

「ああ、本当だ。」

「本当に本当?」

「本当に本当だ。」

「本当に本当に、本当?」

「本当に本当に。ホントだ。」

「・・・・・・。」

長いやり取りの後、あゆは、黙りこくった。

「・・・後ろ、向いてて。」

「あ、うん。」

くるっと、祐一は後ろを向いた。

すると、後ろから、枝を揺らす音が聞こえてくる。

「もういいよ。」

あゆの声が、近くで聞こえた。

そして祐一は、再び前を向く。

祐一が自分の方を向くと、あゆは、ささっと木の後ろに隠れてしまう。

「大丈夫だよ。苛めないから。さ、帰ろう?」

祐一は、さっと手を差し伸べた。

「・・・・うん、帰る。」

祐一に攻撃の意志が無い事を感じ取ったのか、あゆは、おずおずとその手を取った。





「祐一君。何してるの?」

「・・・・・・んあ?」

切り株に寝っころがり、昔を回顧してると、待ち人が顔を覗き込んでいた。

猫の耳を象った帽子に、年相応とは思えない程の、可愛らしい笑顔。その名を月宮あゆ。

そしてその手には、茶色の紙袋が、大事に抱えられていた。

「・・・何でも無い。」

「?」

ゆっくりと体を起こし、祐一はあゆに居直る。

「それよりもあゆ、また食い逃げか?」

「違うもんっ、これはちゃんと買ってきたやつだよ。」

「本当かぁ?」

「うぐぅ、本当だもん・・・。」

あゆは、少し涙目になりながら、自分の真実を目で訴えている。

「冗談だ。」

「・・・うん、分かってるよ。祐一君意地悪だからね。」

「ほっとけ。」

二人で笑い合い、切り株へと座る。

「今日は、どうする?」

「・・・そうだね。今日は、ここで一日、祐一君と一緒に居たいな。」

「・・・は?」

「だから、ボク達の『学校』で過ごしたいなぁ、って。」

それは、大層な願いではない。が、少女にとっては、何よりも大切な願い。

「・・・あゆがそうしたいなら、俺は付き合うよ。」

「うんっ! 祐一君、やっぱり優しいね。」

えへへと笑い、あゆは、祐一の肩に寄り添う。

「・・・鯛焼き、焼き立てだよ。」

「ああ、冷めない内に、な。」

「うん。」

二人は、別段、飾らない時間を過ごそうとしている。

しかし、彼らはそれでも構わないのだ。

今隣に居る人が、それぞれの大切な人なのだから。

太陽は、少しだけ傾きかけていた。

END


後書き

疾「リハビリ〜、リハビリだよ〜、作者の荒み切った心にホイミするよ〜。」

七「ホイミじゃ、意味無いんじゃ・・・。」

疾「えーっと、語るべき事は何も無いので、小生は日記書いて寝ます。」

七「えっ、ちょっと、あたしの出番・・・!」

疾「それではー♪」

七「しくしく・・・。」


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