レンと恭也の無意味に穏やかな日







 「にゃーん」

 ごろごろごろー。

 「どーした、レン?」

 「あはは、なんやこーしたい気分なんですー」

 縁側で、お茶を飲みながらまったりと盆栽を眺めていたおししょに背後から抱きついてスリスリしてみる。

 「おししょにさわってると、なにゃ気持ちえーんです」

 「そか」

 おししょは何にも言わないで、そのまま庭を眺めている。

 なんやこー……枯れてますなぁ。

 さしずめ、今のウチは隠居したじーちゃんの飼い猫。

 「にゃー」

 ウチはおししょの背中から、つつつと移動してぴったりと寄り添うように隣に座って、頭をおししょの腕にもたれさせた。

 「レン、今日はまたやたらと甘えてくるな」

 「はい〜、えー陽気ですからー」

 「……そうなのか?」

 「にゃんこは飼い主に甘えてくるんです」

 「レンが猫で、俺が飼い主か?」

 「そうですー」

 「そーか、じゃあこうしよう」

 「ほぇ?」

 ひょいとウチを腕の中に抱きしめる。と、所謂お姫様だっこの状態で立ち上がった。

 「ふっ!!」

 っと、いう間に屋根に上った。

 「はやや」

 そして、おししょは屋根のてっぺんでウチを足の間に座らせ、滑り落ちないように背中から手を回す。

 「おししょ、なんや子供になったみたいでちぃと恥ずかしいですー」

 「そうか。俺も恥ずかしいから安心しろ」

 むしろ、こーゆーんはおししょのが恥ずかしいやろねぇ。

 はふ、でも屋根の上でおししょにだっこされて陽に当たっていると……めっちゃ幸せやぁ。

 「おししょ〜、もっとぎゅってしてください」

 きゅっ、と少しだけウチを押さえている力が強くなる。

 ウチは後頭部をおししょの胸に預けて、屋根から見えるこの街の光景を眺める。

 そんなことないんだろうけど……何にも哀しみがなさそーなくらい、平和な光景や。

 街行く人も、子供たちも、動物さえも、この街は妙にゆっくりほのぼのと生きている気がする。

 おししょがそんなほのぼの〜、な世界とはまた違ったところに住んでいることは知っているけど……それでも、今ウチを抱いているときはおししょもまったりしてくれている。

 ……まぁ、おししょは戦闘時と訓練時以外はいつもまったりしてるんやけど。見た目は。

 ちゅーか、みんなに枯れてる言われてるけどな。そりゃもー、親の桃子ちゃんよりずっと……

 「レン……なんか、こう失礼なこと考えていないか?」

 「いやん、ウチがそんなこと考えるわけないやないですか〜」

 「……」

 がきゅ。

 「ぐぇ。おししょ、首ぃ、首しまってます〜!!」

 おししょの腕がくきゅっとウチの首にからみついてきて、軽く絞められる。

 「ふ、レンの考えていることくらい、わからいでか」

 「うぅ、ウチはおししょー愛してますー。って考えただけやのに〜」

 「……恥ずかしくないか? そーゆー台詞は」

 「ウチはへーきですー。おししょーのこと好きですから〜」

 「……むぅ」

 おししょは、恥ずかしいのかそっぽを向いてしまう。

 が、ウチの首にはまっていた腕がさがって、もいちどウチをぎゅーっと強く抱きしめる。

 「可愛いな、レンは……」

 ぽそっ、と周りにこざるとかいないような静かな状況で無ければ、聞き逃してしまうような小さい声でおししょが呟く。

 「は、はややぁ。おししょも嬉しいこと良いますなぁ」

 きっと、ウチの顔は真っ赤になっているだろう。

 おししょ、照れ屋だからなかなかそーゆーこと言ってくれへんし。

 「ま、まぁ。たまにはな……ふぅ、それにしても気持ちのいい午後だな……」

 「そーですなー」

 おししょと一緒に空を見上げてみる。

 春の柔らかい日差し、涼しい風……

 「おーい、カメ!! どこいきやがった!!」

 おさるの怒鳴り声……ぷち。

 「おんどりゃあっ!! こんサル。ウチとおししょがえー気持ちでらぶらぶしているのに、邪魔しくさって!!」

 「あっ、てめぇ。屋根なんかにいやがったのか。降りて来やがれっ!!」

 「いやぁん、おししょー。おさるが何か怒ってるぅ〜♪」

 怖がるフリ(にもなってないだろーが)して、おししょに正面から抱きつく。

 ぎうっと。

 「お、おいレン」

 「ああああああっ!? 師匠に何抱きついてやがる!?」

 「おさるがこーわーいー♪」

 「棒読みだぞ……」

 「いやん、おししょ。ウチに抱きつかれるのも嫌いやないでしょ?」

 「そりゃあもちろんだが……晶が……」

 「おさるなんざ、見せつけてやればええんですー。ほーら、おさるー」

 更に強くおししょにしがみつく。

 「てめっ!! 降りてきて勝負しやがれやコラァ!!」

 「おししょ〜。こざるのおらへん、どっか静かな場所に行きましょ」

 「む……そうだな。では、晶。すまんがさらばだ」

 「しっ、師匠!?」

 おししょはウチをまたお姫様だっこして、身軽な動作でぴょいぴょいと屋根から飛び降り走り出す。

 ウチはおししょの首根っこにかじりつくように抱きついて、幸せを噛みしめていた。

 あぁ、おししょ。好きですー♪





 それからそれから。

 師匠はある程度離れると、ウチを降ろした。ちぃと、残念やぁ。

 でも、変わりにおししょの腕に抱きつく。

 ゆーても、ちっこいウチでは殆どぶら下がっているよーなもんやけど。

 ほんで、歩くこと数分。ウチらは翠屋に来ていた。

 「あら、恭也? と、レンも一緒か。今日はどーしたのー?」

 桃子ちゃんが笑顔でウチらを迎えてくれる。

 「いや……レンとお茶を飲みに来た」

 「あはは、家だとやかーしーのがおるんで」

 「あはは、また晶とケンカしたの?」

 「いやぁ、ウチとおししょがラヴラヴしていたら、晶が邪魔してきたんですー」

 「あ、あはは……」

 たらーりと、桃子ちゃんの額に流れる一筋の汗。

 やっぱり、呆れられてるんやろねー。

 「この万年ほのぼのバカップルは……」

 と、言ったのは桃子ちゃんやない。

 「フィアッセ」

 「ハイ恭也、レン。今日も、ラヴラヴしてるのねー」

 世界に名だたる歌姫は、しかしみょーに所帯じみた格好でにこにことケーキを運んでいた。

 「むぅ……」

 照れたのか、おししょは目をそらして昆布茶をすすっている。なんや、言ったら怒られそうやけど、照れるおししょーかーいいなぁ。

 「けど、あの恭也がレンとラヴラヴしている光景ってのも新鮮ねー。おかーさん、嬉いっ♪ とゆーわけでこれはサービスよん」

 桃子ちゃんが厨房に一度引っ込んで持ってきたものは……

 ぷぴゅる。

 おししょが無言、無表情でお茶を吹いた。

 をを、おししょの滅多にみれないおまぬけな行為。さすが桃子ちゃんやぁ、おししょをここまで動揺させるなんて、そうそう出来るもんやないでぇ。

 テーブルにででんと鎮座した、おししょが驚く二つモノとは……

 「か、かーさん……コレは?」

 「やーねー、見た通りじゃないのよ」

 にっこにっことめっちゃ嬉しそうに言う桃子ちゃN。どーやら、息子が慌てているのが楽しくてたまらないよーやね。

 そこにあるソレは、アレや。そう、なんちゅーか、全力でカップル(それも頭にバのつく)以外を拒否するようなスタイリッシュっちゅーか。

 一つはスタンダードなパフェ。スプーンは一本しか用意されていないもの。そして、もう一つは大きめのグラスに注がれたカラフルなジュース……そして、そっから伸びる2本のストロー。

 はや〜、桃子はんおししょをいぢめるのが楽しすぎる見たいやなぁ。

 ほら、おししょ固まってるやん。

 それにしても……別のSSで使ったネタを使い回すなんや、SS書きのやるこっちゃないで。作者。

 でもまぁ……

 「おししょ……あーん」

 ウチはスプーンでパフェの上のクリームを一掬いし、おししょの口元に運ぶ。

 「ぬ、ぐぅ……」

 おししょはだらだらと冷や汗だか脂汗だかを流しながら硬直しとる。ふたりっきりならまだえーんやろうけど、フィアッセはんや桃子ちゃんが見とるからねぇ。

 でも、ウチはこーゆーんも嫌いやないのでもう一言。

 「おししょ、食べてくれんのですか?」

 「ぐっ……卑怯だぞ、レン」

 「んーふーふー。さ、おししょ♪」

 ずずいっ、とスプーンをおししょの口元に更に近づけてみる。

 おししょは少し逡巡するが、意を決してぱくっとスプーンを口に含んだ。

 よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 「きゃー、きょーや可愛い〜♪」

 「おーおー、暑い暑い」

 破願して喜ぶ桃子ちゃんと、パタパタ手で顔を仰ぐフィアッセはん。

 「おししょ、ウチも食べたいですー♪」

 「……」

 ウチが差し出したスプーンの柄を眺めて更に脂汗を流すおししょ。

 だがもう、諦めたみたいやね。大人しくスプーンを受け取った。

 「レン、あーん」

 おししょはクリームを一掬いして、ウチに差し出してきた。

 「あーん」

 ぱくっ。くぅぅ、こっぱずかしゅーて美味しいわぁ。

 「あらあら、レンったら幸せそうな顔しちゃって」

 「めっちゃ、幸せです〜」

 結局、その後も交互にパフェを食べっこして、ジュースもそらもー頭悪いカップルの如く一緒に飲んだ。

 おししょのほんのり赤い顔と、どこまでの楽しそうな桃子ちゃんの表情がとても印象的やった。





 「おししょ、今日はえらいいっぱい恥ずかしいことさせてすまんですー」

 「ん、気にするな。レンが楽しかったのなら、いい」

 もぅ、どーしてこうおししょはウチのハートをしっかりとげっとするようなこと言うんやろ?

 「もー、おししょ……大好きです〜♪」

 ウチはおししょにぽふっと抱きついた。

 そんな平和でポケポケな一日でした。まる。





おしまひ


後書け

 疾風さんへのお返しSS〜
 レンのリクエストってことなんで……なんか無意味にほのぼのさせてみた(つもり)。
 書いていて、背中がかゆくなったのは今更だけど……うぅ、何故かむなしくなる(涙