やばい、と思ったときには既にバランスを崩し、地面に倒れていた。

ドダン、と派手な音を立てて打ち捨てられる自分の身体。

街を歩いていた通行人が、一斉にこちらを見る。

・・・助けてくれ。

そう言おうとしたが、声は出てくれなかった。変わりに、

ギュルルルルル〜・・・

なんて腹の音が鳴り響いてくれやがった。

通行人は危ないものでも見たかのような目付きをした後、顔を戻して歩き出す。

・・・ああ、行かないでくれ。

余程そう言ってやりたかったが、

・・・腹が減ってるんだ。

な〜んて続ける訳にもいくまい。

結果、誰も助けてくれずに隣を通り過ぎていく。

必死の力で立ち上がってみようとしたが、その必死の力が出なかった。

ヤバイ。

足の怪我は治ったのに、これじゃあ追いつけない。

下手をすれば、心優しい誰かか警察官でも通らない限り、ここで野たれ死ぬなんてバッドエンドを迎えてしまう。

冷や汗が出てきた。

本格的に、ヤバイ。

ちゃんと飯くらい食うんだった。

ああ妹よ弟よ、てめぇらのせいで俺は死にそうだぞ・・・・

と、その時。

フッ、と影がさした。

体が動かないので、目線だけ向ける。

・・・それを見た時。

ドクン、と心臓が鳴った。

早鐘のように鳴り響く警告。

 

コロセ。

 

「はっ・・・はぁ」

息が、出来ない。

 

コロセ。

 

それは、こちらを見ている。

殺意は無く、心配げに。

 

コロセ。

 

それは、少女だ。

茶色いポニーテールを垂らし、こちらの顔を覗き込んでいる。

 

コロセ。

 

コロセ。

コロセ。

コロセ。

コロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ・・・!!!

 

 

 

 

薄れる意識の中、言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・飯を、食わせてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月姫 side story

夜 皇 子

 

『死徒狩者』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご馳走様でした」

箸を置いて手を合わせ、少年は深々と頭を下げた。

「お粗末様でした」

少女も軽く頭を下げる。

「助かったよ。危なく飢え死にする所だった」

「そんな、大げさな・・・」

「大げさなものか・・・・っと。そうだ、自己紹介しなくちゃな」

スッ、と少年は音も無く立ち上がった。

身長は160を少し超えたぐらい。黒い長袖を肘までたくし上げ、下は黒いズボン・・・というか、学生服ズボン。

髪も黒く、前髪は目元までかかっており、その目は異様に鋭く、力強い意思を感じる。

余分な脂肪が無い、引き締まった筋肉のおかげで、少し細い印象を与えた。

「俺の名前は霧夜色(きりや しき)。旅人だ」

「旅人・・・?」

「おう。あんたは?」

「あ、うん」

言って、少女も立ち上がった。

身長は色より少し低いくらい。染めているのではなく、地毛であろう茶髪をポニーテールでまとめている。

服装はこの近くの高校のものであろう、学生服。

標準的な体型で、その顔はやさしさを称えていた。

「私の名前は弓塚やよい(ゆみづか やよい)。この近くの高校の一年生。それと・・・」

ずいっと、やよいは色に向かって身を乗り出した。

「『あんた』は失礼よ。色の方が年下っぽいじゃない」

「『年下っぽい』じゃなくて、年下だ。やよいは高校一年なら15、6だろう?俺は14だ」

「呼び捨てにしない!『やよいさん』でしょ!」

「変な所にこだわるな。年下の人に敬語使う奴だって世の中にいるんだから逆もまた叱りだ」

そう胸を張って色が言うと、やよいはガクッと肩を落とした。

「色って・・・変人ね・・・」

「そうか?今時普通だと思うんだが。・・・・それより、飯の礼をしよう」

色は屈み込み、持っていた鞄の中をゴソゴソやりだした。

そして、中から古ぼけた楽器を取り出した。

「ハープ?」

「ああ」

やよいの問いに色は短く答え、弦に指をかけた。

「いつもはこれで路銀を稼いでいる。特別にタダで聞かせてやるよ」

そう言って。

色は、ハープを奏で出した。

 

 

 

 

 

ポロン、ポロロン。

メロディーが流れる。

空気を震わす旋律が響いている。

まるで、御伽噺の世界に入ったかのような感覚。

甘い幻想。

虚ろな夢。

朧な狂気。

 

 

 

 

 

色は、歌いだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢は夢」 それは君が僕に言った言葉

「人は他人」 それは君が僕に送った餞別

僕は歩く この道を歩く

過去は過ぎ去って 未来は遠退いて

それでも僕はずっと歩く 疲れて倒れてしまっても

青い空の太陽は明るくて 暗い闇の満月は暗くて

それでも泣かない きっと泣かない

想い出は消え去って 不幸な未来しか見えなくても

それでも泣かない きっと泣かない

君が教えた永遠の旅路

終わらない輪廻の旅路

僕は歩く この道を歩く

忘れて失くして傷付いても

僕はこの道を歩き続ける

 

 

 

 

 

 

 

 

ポロロン、ポロン・・・。

ハープの音が止まる。

色は顔を上げ、途端怪訝そうな顔になった。

「さつき」

色は尋ねる。

「何故、泣く?」

「・・・え」

さつきは目頭に手をやり、そこが濡れていることに驚いた。

「・・・きっと、色があまりにも上手だったからだよ」

「そうか。それはありがとう」

色は微笑んだ。

年相応の笑顔だった。

 

 

 

 

「これは、母さんの形見の歌なんだ」

 

 

 

 

色は微笑んでいた。

年相応の笑顔だった。

明るい笑顔だった。

・・・寂しそうな、笑顔だった。

 

 

 

 後書き兼感想


 松木澪久さんから素敵な月姫のSideStoryを頂きました。

 何やらオリジナルなスメルがビンビンします(何)。無問題(だから何)。というか期待大です(ぉ

 というわけで、どうもありがとうございました。簡潔ですが、これで感想とさせてもらいます。土下座。


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