見渡すかぎり、ひまわり畑。

 その中に彼女はいた。

 嬉しそうに微笑むと、彼女はひまわりの中を進みはじめた。

―――今日は、特別な日だから。

 彼の事を思うだけで、嬉しさがこみ上げる。

「早く来ないかな。志貴さん」

 満面の笑みを浮かべて、少女―――琥珀は、空を見上げた。



















夏に咲く華




















 汽車に揺られながら、少年は外をぼんやりと眺めていた。

 その瞳に映るのは、流れていく様々な色。

 赤やら茶色やら、色々なものが、彼の目を掠めていった。

 だが、一番多かったのは、今の季節を飾るに相応しい、木々の緑。

 陽光が目を擽る。

 少し目を細め、彼は、

「……夏、か」

 そう、ぽつりと漏らした。

 がたん、と、また一つ、汽車が揺れた。

「もう少し、かな」

 不意に、陽光が鋭く目を差すものから、鈍く照らすものへと変化した。

 太陽が雲で隠れたのだ。

 程なく、汽車は止まった。また、がたんと揺れる。

「さてと、行くかな」

 汽車を降り、少年は空を見上げた。

 太陽は、少しだけ顔を出して、地上の様子を伺っているようにも見える。

―――早く、逢いたい。

 高鳴る気持ちで、彼は一歩を踏み出した。






























 じりじりと、夏の日差しが容赦無く肌を灼く。

―――こんなことなら、日焼け止めでも持ってくれば良かったなぁ……。

 すでに時遅い後悔をして、少年は歩きつづける。

 全身からはじっとりと汗が滲み、ぽたぽたと、それは顔から滴り落ちる。

 彼はバッグからハンカチを取り出すと、額の汗を拭った。

「なんてところなんだ……」

 少年―――志貴は心の中で、彼女に敬意を送った。

 そうこうしているうちに、自分が立っている場所に気付く。

 昼間は明るく。夜は、昏く。

 昔、志貴が暮らしていた、深い森。

 七夜の里。

 今はもう、里と呼べるものではなくなってしまったけれど。

 それでも志貴は、ここに来た。

 彼女に。

 自分が最も愛する、少女の為に。

































 ざぁー……。

 一際強い風が、花畑を薙いだ。

「うーん、まだかなぁ……」

 んーっ、と、琥珀は上へと手を伸ばし、手を組んで、背筋を伸ばした。

 そして考える。彼のことを。

 最愛の彼のことを。

 『琥珀』を解き放ってくれた、遠野志貴のことを。

「早く逢いたいなぁ……」

 少し顔を赤らめ、また微笑んだ。

































 深い森を進んでいく。

 道ははっきりと存在していたので、志貴が迷う事は無かった。

―――ここを抜ければ。

 逢える。

 それだけは、確信できた。

 はやる気持ちを抑え、志貴は道を進んでいく。

 最愛の彼女と邂逅を果たすために。

































「ん……しょっと」

 花の群れから出て、琥珀は深呼吸をした。

 そして、服のあちこちに付着している花弁などを丁寧に剥がしていく。

 最後の一枚を剥がし終えたところで、琥珀は人の気配を感じた。

―――やっと、来てくれた。

 さあ、迎えよう。

 精一杯の笑顔で。

 精一杯の思いで。

 精一杯の『琥珀』で。
































 陽の光が、徐々に強くなり始めていた。

 志貴は思わず、その光に目を細くした。

―――もう、出口が近いな。

 漠然とした感覚だったが、間違いないと、志貴は付け加えた。

 それが、七夜志貴としての記憶だったのかどうかは、定かではない。

 そのまま進んでいくと、やがて、視界が光に染まった。

 余りの眩しさに、志貴は目を瞑る。

 そして、暫くしてから、その眼を開いた。

 まず映ったのは、愛しい少女の姿。

 そして、少女の背後に広がる、広大な花畑。

 でも、少女が浮かべている満面の笑みは、それに負けていない。

―――眩しい。

 それが、太陽の光だけではないことを、志貴は判っていた。

 そして、歩み出す。

 目の前にいる少女に向かって。

 さあ、迎えよう。

 精一杯の笑顔で。

 精一杯の思いで。

 精一杯の『遠野志貴』で。

































――――――おかえりなさい、と。

今度こそ、本当に。

子供の頃の約束を叶えるように。


































ゆっくりと、歩き出そう。






HAPPY END






後書き



 意味不明テイストに仕上がりましたとも。ええ。
 ああ、ほのぼのってこんなに難しかったのね。何度壊れに方向転換しようと思ったか(マテヤ
 こんなお馬鹿なSSの感想を書いてくれる人はアレです。優遇です(ぉ
 履歴書を持ってから来場してください。ごめんなさい嘘です(ぉ
 であ、これにて失礼。


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