水瀬名雪は幸せそうにスプーンを握って、正面の最愛の人に差し向けた。


「はい、祐一。あ〜ん」

「いらん」

「あ〜ん」

「いらん」

「あ〜ん」

「いらん」

「あ〜ん」

「いい加減諦めろ!」

「ええ〜?」


 スプーンを握ったままの姿勢で、のんびりと驚きの声をあげる名雪。

 それにイライラしながら目の前のスプーンに視線を落とし、盛大なため息をついて相沢祐一は呟いた。


「まったく、お前は恥ってもんを知らんのか。こんな店中でそんな恥ずかしいことできるわけないだろ」

「恥じゃないよ〜。おいしいんだよ? イチゴサンデー」

「おいしくても恥ずかしいから嫌だ」

「そんなことないよ〜、ね?」


 こくんと小首を傾げながらスプーンを持つ名雪はとても可愛くて、思わず抱きしめてやりたくなる。

 が、場合が場合で状況が状況だ。

 そんなことしたら間違いなく名雪が調子に乗るのは目に見えて明らかだった。

 そうでなくても、自分は甘いものと甘いことは苦手なのだから。

 またもやため息が漏れる。


「ったく…大体なんで俺はお前にまだイチゴサンデー奢ってるんだよ? とっくに清算は終わっただろ?」

「うん。今までのイチゴサンデーは終わり。今はこれからのイチゴサンデーだよ」

「わけわからないから」


 呆れたように見つける祐一に、名雪はとろけそうな笑顔でニッコリと微笑む。


「過去の約束は7杯のイチゴサンデー。でも、これからの約束も、ずっとこのイチゴサンデーなんだよ〜」

「全然説明になってないんだが…ようするに俺は、一生お前に奢り続けなきゃならないってことか?」

「うん」


 あっさりと頷いちゃってくれる名雪さん。

 もう祐一にはため息もでなかった。

 だが彼女の言うとことも判らないわけではない。





 イチゴサンデーは、見えない約束という存在の証。

 目に見えない不安を振り払うかのように、その想いをこの甘いデザートに託す。

 自分の大好きなイチゴに、自分の大好きだという想いを預ける。

 一生分の約束、一生分のイチゴサンデー、そして一生分の未来。

 約束はずっと続いていく。

 そう、この甘い甘い、究極のデザートが彼女と自分の胸の中にある限りは。


「だから、はい」

「……なんだ、その手は」

「あ〜ん」


 心底嬉しそうに名雪は笑い、再びスプーンをこちらに向けてくる。

 その笑顔は一瞬の曇りもなく、その想いは一瞬の揺れも存在しない。

 純粋に、このデザートを、想いを、自分を、愛しているからこその笑顔だ。





「…かなわないな、お前には」

「うん。イチゴは無敵なんだよ〜」


 ニコニコと笑う名雪に。





 祐一は苦笑いを浮かべながら、彼女のスプーンにゆっくりと口付けた。














 永遠に変わることのない、約束を。

後書きんぐ


はいっ、とりすさんから短編第二弾を頂きました(ぉ
ああ、ED後にありそうな風景だ(笑)。ステキです(ぇ
積極的ななゆなゆに不覚にも少々萌えてしまいました(爆)。私を殺した責任取ってもらうからね(違う
んではありがとうございましたー。

戻るよ戻るよ