第1話『再会の日』
※このシリーズは各所にネタバレ的要素(特に名雪)を含みます。 ※このSSは『ラブコメ』なSSです。
 でも、今回は『コメ』の方は割愛させて頂きます。  折角のラブラブシーンなんだし、ねぇ?
 それでは、どうぞーっ 

 前略  俺を置いて父さんと一緒に外国に行った母さんへ  雪が降ってます。  記憶に残る街に……  7年前と変わらずに……  7年振りに戻ってきたこの街の駅前のベンチに座る俺の前を冷たい風が通り過ぎる。  コブが出来た頭を冷やすには丁度いいかもしれない。  俺はこの懐かしい街に着いた早々、凍った道で見事にひっくり返り、ポケットに手を突っ 込んでいた俺は、受身をとれずに後頭部を強打していたりする。  通行人に笑われたが、それは問題じゃない。  寧ろ頭を強打した所為か、とても大事な事を思い出していた。  そう……この街の大事な思い出を……。  俺はこの街に戻ってくる事をどこか本能的なもので拒否していたけど、それが7年前の ある事件の所為だったなんて。  しかも、それを今まで完全に忘れていた。  何よりも、一人の女の子を失った事で、もう一人の女の子を傷つけてしまった事まで完 全に忘れていた。  恐らく、現実を直視するのが怖くて、俺自身の記憶を消しちゃったんだろうな。  …………最低だな、俺は。  もしかして、傷ついた女の子は、俺に仕返しのつもりで2時間も待たせているのか?  そう考えると、これはちょっとした罰ゲームかもしれない。  来ない待ち人に、思考まで自嘲気味になっているみたいだ。  別な事を考えた方がいいな。  ……そういえば、あの時の女の子の名前……なんていったけな?  7年前に失った女の子の顔と名前が思い出せない。  ぼうっと、未だ降りしきる雪が降る灰色の空を見上げて、その女の子を思い出そうする のだが、どうしてももう一人の女の子の泣き顔が浮かんでくる。  普段はボーッとしてるような表情だったから、あの顔がやけに印象深く脳裏に焼きつい ている。  そう、こんな風にボーッとした感じの表情で―――― 「……雪、積ってるよ」  俺の側で聞こえてくる声。 「そりゃ、2時間も待っているからな」  出来るだけ平静を保つように答える。 「……あれ? いま、何時?」  少女は駅前の時計台を見上げる。 「わ。……びっくり」  全然ビックリしたように聞こえない。 「まだ、2時くらいだと思ってた」  やっぱり、コイツは昔と変わってない。  だから、俺も…………俺の今の気持ちをちゃんと話さないと……な。 「……でも正確には、俺の7年の遅刻だよな」 「?」  何の事だか判らないといった表情で、目の前の少女は首をかしげる。 「7年前、名雪っていう女の子と此処で会う約束をしてたんだ。だけど、俺が7年も待た せちゃったんだよ。とても大事な約束だったのにな」 「……ゆ」 「それに、それを思い出したのはつい先刻だったんだ。まったく……とんだ馬鹿野郎だよ な、俺は…………」  そこまで言って、そのまま時間が暫し経過する。  目の前の少女・水瀬名雪は俯いて、消えそうなくらい小さな声で呟いた。 「……ずるいよ、祐一」 「……そうだな」 「私ね……凄く迷ったんだよ。この場所に来るの。だってこの場所は、悲しい思い出しか ない場所だから……」 「……ああ」 「それにね、約束破った祐一をちょっとだけ困らせようって思って、ワザと遅刻したの。 そしたら、時間が経つにつれ、祐一の前に出にくくなって…………怒ってる、よね?」  俺の考えが当たってたか。  まるで悪戯を咎められた子供のみたいに名雪は俺の顔を見ようとしない。 「怒ってなんかないさ」  俺の言葉に名雪は顔を上げる。  その目は涙目になっていた。 「7年前にどうしようもない俺が、名雪にやった事に比べたらなんてこと無いさ」  積る雪を払い除け、寒さで凍りついたような身体を思いっきり伸ばすようにゆっくりと 立ち上がる。 「とりあえず……ただいま、名雪」 「祐一……」 「それと、遅れて……ごめん」 「……」  しかし、名雪に反応はない。  当然と言えば、当然だ。  今更謝罪しようと、俺の罪は消えることはない。 「……やっぱり、祐一はずるいよ」  ポツリと呟くように名雪が喋りだした。 「折角祐一のこと、諦めようと思ったのに…………出来なくなっちゃったよ」 「別にいいぞ、諦めても。そしたら、俺が酷く落ち込んじゃうけどな」 「……意地悪」  ボフッ  いきなり名雪が俺の胸に顔を埋めるように、身体を預けてきた。  そして俺の顔を見上げ、涙を流しながらも名雪は笑っていた。 「おかえり、祐一」  俺は――このいとこの少女が、世界で一番愛しく思えてならなかった。  もう、名雪を泣かすのは止めようと心に決め、名雪をギュッと抱きしめた。  抱き返してきた名雪はとても暖かかった。  ……母さん。  俺はこの街で、大切なものを取り戻せそうです。  草々  抱き合う祐一と名雪を遠くから見つめる男がいた。  黒のトレンチコートの下に黒スーツ、そして同色の帽子とネクタイ、おまけにレイバン のサングラスというまるでブルース・ブラザーズを髣髴させるような井出達。  怪しげな格好の男は、寒さにも表情も変えずにその場に佇んでいる。 「綻びが始まってしまったか……」  そう呟くと男は、その場から掻き消す様に姿を消していた。  まるで最初からそこに存在していなかったように………… <続く>