某月某日  遠野家

「たっらいまー」

「志貴さま!?」

「うい」

「志貴さま! 今まで何処で何を!?」

「ん、休養」

「休養?」

「うい」

「どう、して。何も言わないで出ていかれたのですか?」

「動ける状況じゃなかったんで。その上、俺、何処にいるかわからなかったから …」

「ですが、手紙くらい…」

「うん、そうだね…。ゴメン、翡翠。謝るよ」

「いいえ、こうして帰ってきてくださったので」

「ありがとう」

 とりあえず、セリフ回しもここまでで。正直、これ以上は続かせたくない。まあ、遠野志貴は帰ってきたって事。

 例の一件で、まあ、俺はケッコーきつい怪我したわけで。 シエル先輩のお世話になってたってわけだ。

 アイヤー、秋葉サン怒ッテルアルカ?

「変な喋り方しないでください、志貴さま」

「おっと、悪い悪い。そうだ、琥珀さんは?」

「姉さんは、厨房だと、思いますが…」

「あー、志貴さーん!」

 ズサァアーと飛び出し、もとい滑ってくる琥珀さん。なんかローラーブレードが標準装備らしいです。

「ただいま、琥珀さん」

「おかえりなさい、志貴さん」

 クルクルと何もつけてないのに周りを滑る琥珀さん。

 もしかして足、宙に浮いてんじゃねえの? ドラえもんか!? ドラえもんなのか!?

 ドラえもんだって足、宙に浮いてるけど滑ってねえぞ!?

「もう、志貴さんったら、手紙くらい出してくださいなっ」

 めっ、と叱る琥珀さん、なんか懐かしい――。

「ごめんごめん」

「もうっ、しょうがないですね。志貴さんは」

「はははっ、面目ない」

「ふふふ」

 琥珀さんと和気藹々。

 って感じで話していると、横にいる翡翠がブスーっとした面持ちでこちらを見て います。

「どうしたの。翡翠」

「いえ…なんでも、ありません」

「うふふふ。ふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」

「え? 何? どうしたの琥珀さん」

「ひーすーいーちゃーん。やきもち焼いてるね〜」

 うりうりーと、言いながら翡翠のほっぺたをつついている。

「ち、違います。わ、私は…別に、そんな…ゴニョゴニョ」

 あー、やっぱり翡翠は可愛いなぁ。あ、そうだ。肝心な事を忘れてた。

「あのさ」

「はい?」

「なんですか?」

「秋葉は?」

 ふかふかベッドでもう一度


「………」

「あはー……」

 黙りこむ二人。

「え? どうしたの? 居間にいるの?」

「あの、志貴さま――」

「ん?」

「その、秋葉さまは……」

「うん」

「その………」

「待って、翡翠ちゃん。わたしから言うわ」

「え?」

「志貴さん、秋葉さまは今、この屋敷にはいません」

 ナンダッテ? 秋葉がここにいない? どうして?

「どうして?」

「それは、秋葉さまが浅上女学院にお戻りになられたからです」

「そっか…。でも、なんで屋敷にはいないの?」

「寮にお入りになられたのです。元々秋葉さまは寮におられましたから。志貴さんが帰ってくるから、秋葉さまは寮を出て、屋敷から通っていたんです 。その志貴さんがいなくなったので、秋葉さまは寮にお戻りになられたのです」

「そっか…それじゃあ、仕方ないな」

「え?」

「志貴さん?」

「無理矢理連れて帰るわけにもいかないだろ?」

「あ、はい…ですが…」

「安心しなよ、翡翠。秋葉がいなくても、大丈夫だからさ」

「はい…」

「でもあれだね、それだと。今まで屋敷には二人しかいなかったって事?」

「そうですよー。秋葉さまったら、酷いですよねー」

「姉さん!」

「大丈夫大丈夫。いくら秋葉さまが地獄耳でも、わかりゃしないわよ」

「ははっ、違いないね。そこまでいくと、地獄じゃなくて煉獄だ」

「……志貴さま、違いは?」

「ゴメン、わからない」

「……………」

 そうして俺は逃げるように立ち去りながら、屋敷に帰ってきた一日目を終えた。後、気のせいだと思うけど。 俺のベッドに、秋葉の香りがした感じがした――。


























「志貴さま、起きてください」

「んー…」

「志貴さま、起きてください」

「あー…、おはよ。翡翠」

「はい、おはようございます」

「早く起きないと、秋葉に…って、秋葉、いなんだったな」

 そう思うと、少し、いや、かなり寂しく感じたのかもしれない――。

 わからない。 朝、起きて秋葉に憎まれ口をたたかれる事がないのか――。

 それはそれでちょっと嬉しいけど、やっぱり、秋葉がいないと――。

「志貴さま?」

「あ、ゴメン。スグに着替えるよ」

「はい、かしこまりました」

 はぁー、秋葉。帰ってくんのかな。

 そんなこんなで結構な日にちが経ちました。

 はしょりすぎてゴメン。でも、しょうがないんだ――。

 俺には、時間が、ないんだ――。


























 某月 吉日  浅上女学院寮内

 プルプルプルプル

「あれー? 秋葉ちゃん、震えてるー。オシッコー?」

「そっとしておいてやれ、羽居。遠野は今、脳内妄想中なんだ」

「あ、そっかー。ゴメンね、秋葉ちゃん」

 オカシイ、何かがオカシイ――。

 そっちでなんかぼやいてる二人もオカシイが、もっとオカシイのが一人いる。

 なんで。 なんで――。

「なんで迎えに来ないのよ!!」

「秋葉ちゃんが壊れたー」

「おい、遠野。周りに迷惑をかける妄想はダメだぞ」

「るっさいのよ! ちょっと黙りなさい!!」

 何を考えてるんだ、あの人は。

 自分で手紙もよこさず、あまつさえ自分はとっくに屋敷に帰ってきてて、のんび りく つろいでるだって――?

 さっきまでの余裕が、もう、空っぽになってしまった。ええっと、私は何を言ってたんだっけ? ああ、そうそう。

「迎えに来るまで待ってやるんだなんて言ってられないわ!」

「は? 遠野、お前さん、1時間前に絶対帰ってやるもんかって言ってじゃないか」

「そんな事忘れました」

「マジかよ、おい…」

「さ、そうと決まったらさっさと帰ろっと。ぐずぐずしてると琥珀が兄さんをヤク漬けにしてしまいそうだし」

「ヤク漬けって…」

「もし、兄さんが翡翠と琥珀に手を出してたら生き延びた事を後悔させて差し上 げますわ」

「お嬢様言葉になってる秋葉ちゃん、怖いッス」

「ああ、遠野の兄貴も、厄介なモンに目つけられたな…」

「さ、そうと決まったら早く帰らなくっちゃっ」

 ふふっ。兄さんに会える口実が出来ちゃった。

「荷物は後で送らせるわ。それじゃあね」

「うん、またねー」

「またかどうかはわからないわよ。また転校するかもしれないし」

「あ、そっか。秋葉ちゃん。お兄さんの追っかけだもんねー」

「むしろ、ストーカーともいうか…」

「なんですって?」

「いや、なんでもないぞ。さっさと帰った方がいい。ああ、絶対いい」

「全く…。それじゃ、短い間だったけど」

「うん、バイバーイ」

「上手い事やれよ。犯罪にならない程度にな」

「ふふっ、蒼香さん。ご冗談が上手いですわね」

「行け! さっさと行け!」

「はいはい、行って来ますよ」





1時間半後くらい 遠野家





「はぁー」

 いつもの様に、溜め息をつく。

「もうっ、志貴さんったら。いつまで溜め息ついてるんですか」

「だってさー…」

「だってもへちまもありません! そんなに寂しいなら、私達にお情けをくーだ さーいな♪」

「は? って、何? その笑いは何!?」

「うふふっ、今まで我慢してきましたけど。もう我慢できましぇん。秋葉さまが帰って来ないうちに、志貴さんを私のモノにしちゃいます」

「や、やめ。やめて。あ! あっ!! イヤ!」

 おーかーさーれーるー。逆れいーぷ。いやー。

 バタン!!

「姉さん!!」

「ちぃ!」

 琥珀サンがニュータイプの人みたいに叫ぶ。もうちょっとで貞操が危なかった。

「翡翠ちゃーん。翡翠ちゃんも志貴さん、犯したくない?」

「待てっちゅーに!!」

知らない間に俺の身体は縛られていて身動きが取れなくなっている。

「ってふりこで何してんの!? 洗脳っすか!?」

「うふふーのふー。たまには薬以外も使わないと」

「イヤイヤイヤ! どっちもダメっすよ!」

「え? どっちも使える琥珀さんも素敵だよって?」

「違う違う違う! どうやったらそんな風に介錯できんの!?」

「え? 頭脳明晰な琥珀さんはもっと素敵だよって?」

「だからなんでそうなるの!?」

「もう、うっさいなー」

「うわーん。逆ギレだー」

「もういいです。志貴さん、アナタをヤク漬けです」

「微妙に文法あってそう! いや、そうじゃなくて!!」

「五月蝿いです。黙りやがれコンチクショウ」

「って翡翠どこ!? 翡翠! 助けてくれ!!」

「ああ、翡翠ちゃん? 上にいるじゃないっすか」

「上?」

 琥珀さんの指が指し示すように俺は上を見た。

「アホォがみーる!!」

 ズベス!

「イタッ!」

 なんかしらんけど殴られた!!

「さて、前戯はこの程度にしておきましょう」

「ゼンゼン愛が無いッスYO!」

「あら、わたしの愛情タップリ注いだお注射がこーんなとこにー」

 ヤバイ、かなりヤバイ。 これはヤバイ。マジでヤバイ。

 いつかヤク漬けにされるかもとは思っていたけどまさかこんなに早く訪れるとは思ってもみなかった。

 ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ――。

 このままだと秋葉に殺される。問答無用に殺される。

 じわじわ嬲られて死ぬのもイヤだけど、存在自体が無に帰ってしまうような死に方はもっとイヤだ。

「痛くないですよー。ほーら、痛くないからねー」

 琥珀さんは嬉々とした表情でこっちへにじり寄ってくる。絶体絶命のピンチってヤツデスカー?

「あらあら、震えちゃって。怖くないですよー。べろべろばー」

「こわっ、マジこわっ」

 あ、アカン…。このままやったら、ホンマにアカン…。

 どないしょう。俺。まだ帰ってきて間無いのに、こんなとこで終わってまうんか…。

 結構、哀しいな。秋葉に、まだ一回も会うてへんのに…。しゃーない。腹くくろか。

「おっ、目を瞑ったという事は腹をくくったということですねー、志貴さん」

「……………」

「うふふっ。それじゃあ、遠慮無く」

 ああ、もう、イヤだ…。さよなら、秋葉…。お兄ちゃん、先に逝くね…。

 バタンッ!!!

「兄さん!!」

「ちぃ!」

 シュパッと、一瞬にして俺から距離を取る琥珀さん。そして、ドアに見えるのは――。

「秋葉――」

 久しぶりだな。あ、髪短くなった? 雰囲気変わったな。胸は変わってないけど。

 なんて事、言えるはず――。

「兄さん。とりあえず、今のセリフについては後でお聞き致します」

 え。

「まずは、この泥棒ネコ、もとい、泥棒使用人を処分致します」

「イヤですよー。秋葉さまー。泥棒だなんてー」

「お黙りなさい。少しでも、兄さんを自分のモノにしようとした罪は死でもって償ってもらいますわ」

「あ、あれ? ま、マジですか? 秋葉さま」

「ええ、大マジよ」

「あ、あはー…」

 おおっと、琥珀さんがハンググライダーを取りだしたあぁぁぁ!! 行くのか!? 行くのか!? 行ってしまうのかああぁぁぁぁ!!!???

「はっはー、さらばだ。明智クン。また会う日まで、アディオス!」

「お待ちなさい」



 ずどーん



「異議を申したてます」



「それ、ゲーム違う」

「失礼しました。ついクセで…」

「イケナイ癖だな…」

「ゴメンなさい、兄さん」

「良いんだよ、秋葉。お前がいてくれさえすれば、それで…」

「ああ、兄さんっ」

 俺と秋葉が感動の対面を果たしている内に、琥珀さんがローラーブレードで逃げようとしていた。

「あ、あら? あらあら? 見つかっちゃいました?」

「当たり前よ。それより琥珀。貴方まだ何もしていないでしょうね?」

「はい、それは神に誓いますよー。ねー、志貴さーん」

「イヤ、縛り付けられてる時点で…」

「何か言いました?」

「イエ、ナンデモアリマセンデス、ハイ」

「そうですかー。それじゃあ、わたしはこれで」

 きぃーんという掛け声で琥珀さんは去っていった――。

 そして、俺と秋葉だけが、残ってしまった――。何て、声をかければ良いのだろう――。

 さっきは、ノリでなんかやってしまったけど、二人きりになると、声が詰まる。それに、抱き合ってしまっているので、余計に話しづらい。

「え…?」

 ぎゅっと、秋葉が俺を抱きしめる力を強くした。兄さんと、か細い声で俺に囁いた。

 帰ってきてくれて、ありがとう。と――――。

「秋葉。ただいま」

「お帰りなさい。兄さん」

「もうしばらく、このままでいさせてくれないか?」

「はい。兄さんがお望みなら…」

「ありがとう」

「こちらこそ…」

 そう言って、俺達はもう一度。強く抱きしめ合った。今まで、離れていた時が果てしない時に感じた。

 愛している人と離れている時が、こんなに永いなんて思いもしなかった。もう二度と離したくない。ずっと側にいたい。

 イヤだと、言われても。側にいる。

「………」

「………」

 静寂だけが、俺達の周りを満たしていた。

 何も言わずに俺達はキスをした。お互いの存在を確かめ合うように、ゆっくりと唇を合していく。そして、ゆっくりと離れる――。

 この腕に中にいる秋葉がとても小さくて。そんな秋葉をこれでもかって言うくらい愛したくて。

「なあ、秋葉」

「なんですか?」

「あの約束、覚えてるか?」

「え?」

「秋葉のベッドでもう一度ってやつ」

 俺がそういうと、秋葉はボンっていう効果音がつくくらい真っ赤になった。

 やっぱり、そういう秋葉の反応を見ると嬉しくなったりしてしまう。

「な、いいだろ?」

「あの、その…。に、兄さんが望むのなら…」

「ん? それじゃあ、秋葉は望んでいないのか…。じゃあ、仕方ないな。秋葉が望んでいないなら…」

 俺はガクっと、わざとうな垂れて見せる。

「も、もうっ。兄さんのバカ…」

「んー? はっきり口で言ってくれないとなぁ」

 今度はニヤニヤと笑う。

「し、しりません」

「あっそう。それじゃあ」

 実力行使に出るしかないなぁ。

「おりゃ」

「きゃっ。あん。兄さん。ダ、ダメですっ」

「ほー。じゃあその嬉しそうな顔はなんだ?」

「あ、あの。それは。あんっ。あ、あんまり胸を…いじらないでください」

 そんなのムリ。

 といって俺は秋葉にいたづらをしてしまう。こっちだってずっと我慢してたんだ。 これくらいは多めに見てもらわないと、困る。

「さて、それじゃあ。本番に行くか」

「え? あっ」

 俺は秋葉の身体を抱き上げ。 お姫様抱っこをする。

「さ、行きましょうか。お姫様」

「もう。強引なんですね。兄さんったら」

「そっちの方がスキだろ?」

「………はい」

「うむ。素直で宜しい」

「ふふっ。……ねえ、兄さん」

 俺の腕の中に収まっている秋葉が、上目使いで俺を見る。

 その仕草がいじらしくて。とんでもない小悪魔に見えたりもしたけど…この場合 は天使かな。

「何?」

「あのですね…。その…」

「ん?」

「……大スキです」

「俺もだよ」

 そう、そんな事当たり前だ。遠野志貴は、遠野秋葉以外の女を愛す事なんで出来やしない。

 逆に言えば、俺はコイツに飼われてるって感じかも――。

 でも、それはそれでなんか癪だから…。こうやって実力行使に出るのである。

 これからも、こんな風に毎日が過ぎていきそうだ。少しは、節度ってもんを考えないとな…。

 さて、今日は流石に無礼講だろう。あのふかふかベッドで秋葉と楽しもう。試してみたい事もあったりするし。

 まあ、なんやかんや言っても。俺はコイツをどうしようもないくらい、愛しているんだから――。


























 ― Fin ―


























 <後書き>

 はい。どうも、ピロ改め提督ですー。ええっと、うん、多分。すっごいありがちなネタだとおもいます(ぉぃ

 でも、まあ、最初にギャグとか入ってるし。面白くないけど(しね

 秋葉大スキです。ええ、ほんとに。

 秋葉がいたらご飯100杯食べれます。ええ、ほんとに。秋葉が(しにさらせ






 <感想る>

 ピロさんからとってもステキングな月姫SSを頂きましたー。

 つかステキすぎます。自分の属性はアルクと羽ピンですが、ステキと思いました。

 前半ギャグなのに、最後はきっちりシリアスで締める。理想的な形です。

 それではありがとうございましたー。



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