少しずつ零れ落ちていった時の砂。

 それらはもう戻らないものと悟り、少年は慄いた。

 隣にいる少女の事すらも思い出せなくなる恐怖に嗚咽する日もあった。

 でも、少年は最後の最後まで抗った。忘れる事に。

 だがしかし、打ち克つ事は出来なかった。

 やがて彼は両親に引き取られ、誰もいない、花に囲まれた場所へと行ってしまった。

 少女は泣いた。泣き続けた。

 暫くして彼に会える日があったが、その日は彼女の心に残酷な現実を叩きつけた。

 記憶すること。思い出すこと。それらを全て彼は失っていた。

 あまりの悲しさに、彼女はまた泣いた。

 彼は、何故だかひどく胸が苦しくなった。

 ずきんと、古傷が痛む。

―――なんで、こんなに、苦しく、なる。

 その日は、彼にとっても彼女にとっても、酷な日だった。


































 月日は絶え間無く流れる。

 どんなに苦しく、悲しく、泣きたい日があっても、朝は必ずやって来る。

 私はリボンを解いて、すっかり長くなった髪をかきあげた。

 丁度、今日で3年。

 あいつと別れて。でも、忘れる事は出来ない、本当に大好きなひと。

 差し出し人の名が無い郵便物の中身を見たときは、涙が止まらなかった。

 彼の思い、苛立ち、悲しみ、そして、あたしへの思い。

 あのノートには、当時の彼の思いが全て書き記されていた。

 どうしようもない不安と戦い、砕けた時間。

 あたしの手には花束。

 実は、今日は兄のお墓参り。

 長い石段を登っていくと、そこに兄は眠っているのだ。

 ざぁあ……。

 風が流れた。

 ふと、今朝方に見た夢を思い出す。

 あれは、一体なんだったのか。

 しかしあたしにそれを知る術は無い。

 考えていてもしょうがないので、私は階段を登りつづける。

 そして、頂上へと辿り着いた。

 いつも寂しいその場所は、今日も誰もいない―――と思っていた。

 誰かが、兄の墓の前に立っている。

「あ……」

 そいつの顔を見て、思わず声が漏れた。

 一番に会いたいひと。一番にだいすきなひと。一番に抱きしめたいひと。

 「あいつ」は、確かにそこにいた。

「ちっとは育っていると思えば……相変わらず、胸が平たいなあ、はるぴー」

 イタズラっぽい笑みを浮かべて、冗談めかした言葉を吐く。

「……」

 声を失う。でも、今のあたしの顔は、きっと笑顔なんだと思う。

「どーした? 顔がくしゃくしゃだぞ?」

「っ……! 新沢っ!!」

 そして、この瞬間笑顔は崩れ、涙が流れた。

 かなしい涙じゃない。うれしい涙。

「ははは……泣き虫なトコも相変わらずだな」

「新沢、嫌な事ばっか覚えてる……あたしとした約束は……覚えてる?」

 あたしが尋ねると、彼はにっこりと笑って、

「おう、晴姫と俺との真剣勝負だ」

 覚えていてくれた。思い出してくれた。

 あまりの嬉しさに、涙が流れている事も忘れ、笑顔を作った。

「うんっ!」

 そして、元気に頷いた。

 すると新沢は微笑んでくれて、

「この海を泳ぎ切った方が勝ち」

 あの時のような言葉を言った。

「そんな約束してないっ」

 あの頃ともちっとも変わっていないやり取り。不意に懐かしさがこみ上げた。

 涙がとめどなく流れるけれど、笑顔もとまらない。

 ふっと、秋風があたし達を撫でた。

 もう、涙は似合わない。

 この秋風が涙や悲しみなんて吹き飛ばしてくれる。

 そして、代わりに喜びを運んできてくれた。

 きっとそれは、お兄ちゃんからの贈り物。

 あたしは、今日という日を忘れないだろう。

 冬が来て、春が来て、夏が来て、また秋が来ても。

 この秋桜の花は、あたし達を出迎えてくれる。

 誰にも負けない、とびっきりの優しさと笑顔で。

 秋桜の花びらは、風に飛ばされて空へと舞いあがっていた。






























HappyEnd







 後書き



 勢いだけで書いた「秋桜の空に」SSです。
 いやー、感動感動。晴姫萌へ(マテ
 実は、まだそれしかクリアしてないんですが(更にマテ
 彼女はまるでななs(どきゅーん)・・・ぐふっ(がくり


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