ちゅー。
 想像してみる。あたしからあいつへ。下心を乗せて。
 ちゅー。
 ……あー。やば。臨界点超えそう。
 ちゅー。



 そも、これはどういった意味合いを持つものか。
 親愛、友情、愛情。とりあえずこの三つだけが咄嗟に出てくる。
 親愛。そも身内ちゃうやんけー。
 友情。もう友達以上やんけー。
 愛情。……らりほー。
 あたしは自分の想像以上にやばい段階まで来ているらしい。
 子供じゃあるまいし、「愛情」って思っただけで頭がくらくらするのはおかしい。
 ちゅー。
 不意に脳裏を掠める映像。あたしからあいつへの軽い下心。
 じゃあ、その先を、想像してみよう。
 れでぃー?
 ごめん、あたしの負けです。耐えられそうにないです。無理してました。



 そう言えば、ちゅーをするのはいつもあたしからのような。
 あいつがしてくるのはちゅーで、あたしがするのもちゅー。カテゴライズ。
 昨日の別れ際も、あたしからちゅーをして、あいつからちゅーをもらった。
 まずあたしが抱きついて、背を伸ばして。あいつが顔を近づけてきてくれて、あたしは啄むように、ちゅー。ソート。
 「大人のキス」とは程遠い、照れを前面に押し出したあたしのちゅー。精一杯の下心だけど、本当は一歩でも先に進みたい。
 さあ、準備はおーけー?
 さあ、準備はおーけー?
 まあだだよ。
 まあだだよ。
 ああ、あたしってば。
 はい、そうです、その通りです。しばらく「大人」はおあずけでいいですよーだ。



 そうやっていれば、いつかはちゅーを卒業するかもしれない。卒業できないかもしれない。
 あまつさえ留年して、げっへっへ単位が欲しければお前の体でああいやぁー体はやめてぇーって落ち着きなさい藤林杏。
 枕と妄想を抱えて、ベッドの上を八面六臂の大活躍。



 ちゅー。
 あたしからあいつへの、率直なデリバリー。
 スクーターじゃあ運べない、専門デリバリー。
 あたしはあんたが好きだから、だから、あんたもあたしを好きなままでいなさい!
 この気持ちをデリバリー。毎日、毎日、欠かさずデリバリー。
 自分の唇をなぞって、感触と高揚を思い出す。迫り来る恥ずかしさという波。あたしは波にうまく乗れずに沈んでいくサーファー。
 ああ沈んじゃ駄目だってば。乗りこなせ。乗りこなせ。意のままに波の間を駆け抜けろ。
 それができたら苦労してないっつーの。ひとりノリツッコミ。
 出来はイマイチ。



 今日もあたしはちゅーをする。あいつもあたしにちゅーをする。
 猥雑さは感じない、ただただまっすぐな感情。
 大好き。
 互いにそれだけは言わなくてもわかっているわけで。ちゅーを交互にしたあと、顔がふたりとも紅潮していく。
 まったく、進歩のない。
 自分で自分にあきれることには慣れてしまった。それは、ひどく、かなしい。



 部屋にあいつを招いて、見渡している隙に飛び掛る。
 驚きで固まっている隙に組み伏せて、あたしは笑うのだ。
 ちゅー。ちゅー。
 ちゅー。
 恥ずかしいって?
 あたしだって恥ずかしい。
 でも、いいじゃないの。マーキングマーキング。
 耳、首筋、胸、おなか、全身にちゅー。
 これはあたしのものなので、手は出さないように。いいー?
 ……へへぇ……
 朋也。
 好きだからね。