彼は誘われた。

『永遠』という名の世界に。

そして、なすがままに、彼は消えた。

地上から。人々の記憶から。

だが、忘れる事に抗った少女が居た。

彼女は忘れない。

彼の温もりを、声を、顔を、自分を包んでくれていた優しさを。

そして、彼女は決心した。

彼が帰って来てくれる時を、待とうと。















Calling















その日は雨だった。

少しだけ傘を傾けて、私は空を見上げている。

雨はその場に留まる事無く、しとしとと降り続けている。

雨は留まらずとも、私は留まっている。

私の時の針は、あの時のまま、止まったままだ。

半年前の「長森瑞佳」のまま、私は止まる事の無い世界に生きている。

あの時に全てを忘れれば、どのくらい楽だったろうか。「長森瑞佳」はどうなっていたのだろうか。

でもそれは、刹那的な愚かな考えだ。

彼を忘れると言う事は、何事にも代え難い苦痛。

でも、彼を待ち続けると言う事も、それに等しい苦痛。

正に、今の私は四面楚歌だ。

でも、信じて疑わない。

彼が、私の隣に居たという実感は、本物だ。

だから、早く帰ってきて欲しい。

大きな声で、私の名前を呼んで欲しい。

何度も、大きな声で呼んで欲しい。

ぎゅって、抱き締めて欲しいよ・・・。

寂しいよ・・・・浩平・・・・。








その日は晴れだった。

まだ、私の針は動かない。

もう、桜が咲く季節になっていた。

歩いていると、桜の花弁が、顔に張り付いて来る。

それを丁寧に剥がし、再び風の流れへと戻してやると、それらは気持ち良さそうに舞い上がった。

でも、私の中のもやもやは晴れない。

むしろ、増加の一途を辿っている。

もう、1年が経つ。

皆は矛盾が無い毎日を送る。が、私だけ。世界で私だけが、矛盾だらけの思いを抱いている。

何故なら、私は、渇望しているからだ。既に世界の定理に組み込まれていない彼を。

一つの小さな歯車が外れても、世界と言う機関は動き続けている。

だけど、『私』と言う機関は、それだけで止まってしまう。

私はもう、彼の居ない生活が考えられなくなっている。だから、私は止まっている。

彼という歯車が帰ってくるその日まで、私はそこで止まり続けるのだ。








日誌を書いている。

日直である私には、それが課せられた義務だ。

今日の出来事等を、簡潔に纏めて書き上げる。

上辺だけの文字の羅列を並べながら、ふと外を眺めた。

世界は動き続けている。今までもこれからも、それは変わらないだろう。

窓の外の風景も、何ら変わり映えしない。

何となくそれらから視線を逸らして、再び日誌の作業に戻った。

無駄なく文を纏め、これで作業は終わり。

今日も、ただ待つだけ。

「あー・・・。こほん。」




そうだと、疑わなかった。

でも、そうでは無かった。




再び、歯車が上手く組み込んだらしい。

「ずっと好きだったんだ……。」

言いたい事は山ほどある。でも、今は一つだけでいい。

「俺と、もう一回、付き合ってくれ!」

「うんっ、いいよ。」

これだけで、充分だよ。今は。

ね、浩平。





1年は長かった。

でも、四つの季節を跨いで、やっと私は時を刻み始めた。

随分と遅くなっちゃったけど、私達の時間はこれからだよ。

ね、浩平?



今、ゆっくりと輝く季節が幕を開けた。







END






後書き



疾「さっぱりです。」

瑞「さっぱりだよもん。」

疾「いやー、流石は実験SS。見事なまでのへたれですね。短いし。」

瑞「へたれだよもん。」

疾「反響無いだろうね。」

瑞「無いんだよもん。」

疾「ええいっ! お蔵入りじゃ〜!」

瑞「お蔵入りだよもん。」

疾「でも、ちゃんと発表する僕。」

瑞「発表だよもん。」

疾「それではこの辺でー。」

瑞「だよもん。」


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