OVA版超機動暴発氷菓子娘しおりん♪

ジェノサイド☆クリスマス








「ほいほい……こりゃこりゃ……まる、と」

 原稿用紙にペンを走らせる音が私の部屋に谺します。遮る物のないこの部屋では、その音は反響し、やがては空間に吸い込まれて消えて行きます。そして間髪入れず、また次の音が響き渡るのです。これは一種の永久機関と言っても良いでしょう。私がペンを動かすのを止めるまでは。

「ふう……こんなものでしょうかね」

 ペンを置いて、私は原稿用紙を眼前に掲げて誤字脱字の類が無いかと推敲を重ねます。そしておおむね良好だと結論付けて、その厚い束を机の上に置きました。ぱた、と軽い音がして、置いた時に発生した風で机の上の消しゴムのカスが舞い上がりました。
 何時間もこうしてずっと同じ姿勢で机に向かっていると、例えこの椅子が使用者を疲れさせないように親切設計されているとは言え、いささかの疲労感も芽生えます。私は目を瞑り、指でそっと揉み解しました。じんわりと目の奥に染み、心地良い気分になります。
 思い切り身体を伸ばすと、背骨の辺りが軽快な音を立てました。なまっているようです。肩も張っているようですし、典型的なe−疲労でしょう。
 あ、ご紹介が遅れましたね。              トリーズナー
 私の名前は美坂栞と言います。みんなは私の事を反逆者シオリと呼んだりもします。今世紀最大の病弱ヒロインにしてアイスが動力源の美少女です。どのくらいアイスが好きかと言うと、永谷園カニチャーハンの素の総売上を縦に並べた長さくらい好きです。否、既に私にとってはアイスは嗜好云々の問題ではなく、無ければ死ぬほど重要なファクターなのです。パーフェクトソルジャーがジジリウム無しでは生きられないのと同義です。
 因みにバニラアイス限定。チョコ味なんて持って来た奴ぁその場でブチ殺しますのでその積もりを。前にもその事を知りつつもわざわざ食後にペパーミントアイスを出したクソ馬鹿で白痴などうしようもない姉がいましたが、ちゃんと優しく諭して解ってもらいました。もっとも、何故かお姉ちゃんは頭蓋骨が陥没して病院に運ばれましたが。何ででしょう。難病ですかね? ま、変人には奇病が似合うと言うものです。
 で、自己紹介はこっちに置いといて。
 何で私が必死こいて原稿用紙に書き込んでいたかと言うと、ちょっとしたアルバイトなんです。実は私、同人誌で小説を書いているんです。お知り合いの人に頼まれて先々月の即売会から連載しているんですけど、事の他人気があって。こうして今も執筆に勤しんでいるんです。因みに報酬は上がりの三割。ちょっとしたお小遣い稼ぎになります。
 内容を聞きますか? 別に特段の特徴もない良くあるロボット物ですよ。
             ダイオ キシン
 その名も『産廃ロボ大雄鬼神』です。とある工場から漏れた産業廃棄物を一身に受けた鉄屑が意志を持って、街中を暴れ回ると言う壮大なるジュブナイルボーイズラヴストーリーです。今回の見所は、有害物質を撒き散らしながらも一人の少女を守る為に陸上自衛隊の自走迫撃砲と戦う場面です。ライバルの陸自一尉、大塩平八郎と雌雄を決する回でもあります。これ以後、舞台は日本から天王星に移る訳なんです。予定ではグインサーガよりも続くんですが。
 因みにこの作品をSRCのスパロボKで再現した結果、自身の放つ放射能でロンド・ベル隊が壊滅してしまいました。本人に自覚症状がないぶん、ソロモンの悪夢よりタチが悪いですね。
 あ、設定では主人公の声は島田敏さんとなっています。あの情けない声はちょっと他の人には出せませんからね。私の大好きな声優さんです。で、ヒロインは若本規夫さん。ジェイクリーナスの如きブイシー(渋い)なお声で黄色い悲鳴を上げてくれます。これで濃ゆいファンのハートをがっちりキャッチ。
 ま、それはさて置き。
 こうして夜遅くまでじっくりと執筆活動していた甲斐もあって、入稿三日前にアップ出来ました。これも日頃の行ないが良いお陰でしょう。おめでとう、私。ありがとう、私。
 と。

コンコン。

 扉を叩く音です。間違えても狐の鳴き声ではありません。そもそも狐ってコンコン鳴くんですか? 今度真琴さんに聞いてみる事にしましょう。
 ノックをされたからには応えなければいけません。私は椅子から立つと、机の中に仕舞っておいた携帯用22mm超伝導加速機銃を片手に扉に近付きました。片手で操れるコンパクトな殺傷兵器で小さいお子さんや女性の方々に好評です。
 す、と音もなく壁に背を付け、決して扉の直線状に立たないようにポジションを取ります。この用心深さが戦場では一瞬の明暗を分けるのです。
 扉越しに相手の殺気を沸沸と感じながら、私は言葉を投げ掛けました。

「1981年の映画『類人猿ターザン』の主演女優は?」
「ボー・デレク」
「『今夜はビート・イット』のパロディ、『今夜はイート・イット』を歌ったのは?」
「アル・ヤンコビック」

 やれやれ、本物のお姉ちゃんのようですね。そんな下らない事を知ってるのは。
 得心して、私は扉を開け放ちました。すると壁と扉の隙間からバイオライダーの如くするりと室内に侵入する影があります。美坂香里、私のたった一人のお姉ちゃんです。

「こんばんわ、まほろさん」
「こんばんわ、おじゃる丸」

 なかなか気の利いた答えが帰って来ました。私の声が今だ小西寛子だと言う事を見破っています。さすが我が姉。侮り難いものがありますね。

「どうしたんですか、お姉ちゃん。こんな夜中に」
「こんな夜中まであんたが執筆してるから、差し入れに来たんじゃない」

 そう言ってお姉ちゃんは何かを差し出して来ました。手の平に乗っかるくらいの、カップです。マキシマムのようにキング・スキャンでその物体をサーチしてみると、アイスクリームと言う事実に突き当たりました。

「当然、バニラよ」
「わ♪ お姉ちゃん、大好きです♪」

 食べ終わるまではね。
 大体、バニラで当然なんですよ。しこたま殴って解らせてあげましたからね。これでガリガリ君なんぞ持って来た日にゃあ、百合折りから屈B→立B→夢弾一発目キャンセル八雅女MAX版。もしくは、三人セレスティアルスター後にニーベルンヴァレスティ第三段階。

「で、書けたの?」
「ばっちりです。聞くも涙、語るも涙の感動ストーリーが完成しました。今回で地球光編は完結しまして、来年からは月光蝶編に移行します」
「ふ〜ん」

 さも興味が無さそうにお姉ちゃんはアイスを頬張ります。後でシメときましょう。

「ところで、栞」
「何ですか?」
「あんたって胸小さいわね」

めきょ。

 お姉ちゃんの顔面に涙のスパイラルナックルがヒットします。ダメージ65535、撃墜です。

「あんまフザケた事ほざいてっと慈悲無く容赦無く万遍無くえぐりますよ?」
「……そんなに怒らなくても」

 何なんでしょう、このアマは。人が最も気にしている事をずけずけと。何人たりとも決して踏み入る事の敵わぬ心の傷、人それを『禁句』と言います。

「おんなじ血が流れてるのに、あんたは――」
「胃が破けるまで蹴られたいですか?」
「――私のアイス、食べる?」
「はい♪」

 当然です。元より、何故お姉ちゃん風情が私と相伴してるのでしょうか。分不相応と言う言葉は虫けらの辞書には載ってないんですかね? 全く、昆虫より生きている価値の無い姉を持つと私も苦労します。ま、物狂い総身に知恵が回りかねと言いますからね。寛大な私は許してあげる事にしましょう。

「そう言えば栞」
「はい?」
「明日、どうするの?」

 そうでした。明日は一年で最も重要なイベント、クリスマスイヴがあるのです。十二月二十四日、それは恋人達が一夜の夢を見る素敵な一日。
 当然、私もその部類に入るのですが。私にも恋人さんはいます。私が一生連れ添うと心に決めた、とっても大切な殿方が。

「えっと大体の準備は出来たんですけど、まだプレゼントを買ってなくて」
「お間抜けさんね〜。間に合うの?」

 明日は、私の想い人である相沢祐一さんのお宅――正確には居候先の水瀬さんの家ですが――にお招きされているんです。クリスマスパーティを催すそうなので。因みに水瀬さん所の名雪さんの誕生日が今日でしたから、水瀬家では毎年二日連続で宴を用意するらしいです。ナイスガッツ。思わずお米券を進呈したくなります。

「迷ってるんです。秋子さんと名雪さんへのプレゼントはもう買ってあるんですけど、祐一さんがまだ。どんな物を贈ったら良いか迷って」
「鎖付きの首輪は?」
「それはお姉ちゃん用にしました。拘束具も乳首ピアスも買ってあります」
「白燐弾は?」
「それは二人で北川さんのお家に投げ入れたじゃないですか。良い夢見ろよって」
「ああ、あれね〜。窓から放り投げて炸裂するもんだからちょっとした警察沙汰になって楽しかったわね」
「その日の夕刊にも載りましたしね」
「じゃあ……う〜ん……悩むわね〜」
「何かこう、『の〜てん直撃セガサターン』のフレーズばりにインパクトのある物はないでしょうかね」
「インパクトねぇ……あ、そうだ」

 ぽん、と手の平を叩き合わせるお姉ちゃん。下等生物なりに無い知恵を絞ったようです。本来ならば私と口を利くのもおこがましいのですが、特別に許可してあげましょう。

「あんた、素っ裸にプレゼント用のリボンを亀甲縛りにして自分自身を贈りなさいよ。相沢君、きっと喜ぶわよ?」
「それも候補のうちに入ってはいるんですけどね。真冬にそんな事したらナチュラルに昇天しちゃうかな、て」
「あら、良いじゃない。相沢君は私がもらってあげるから」

ごきょ☆

「お姉ちゃん。幾ら単細胞生物以下の塵芥だからって、学習能力くらいは身に付けて下さいね」

 殴り倒したお姉ちゃんの後頭部を踵でぐりぐりと踏み付けながら、極めて懇切丁寧に諭してあげます。しかしこの姉と言う生き物、なかなかに丈夫ですね。アーマークラス−30くらいでしょうか。

「まずあんたの贈り物の傾向を言ってくれないと私も解らないわよ」
「傾向ですか……金に糸目は付けないし合法非合法も問わないからとにかく祐一さんが泣いて喜ぶようなもの、ですかね」
「う〜ん……あんた、恋人なんでしょ? 相沢君の好きそうなものって解らないの?」
「そうですねぇ……最近はタウンページのCMに出て来る『ありゃりゃりゃおじさん』が大好きとか言ってましたけど」
「却下」
「たれぱんだは遺伝子操作してでも実物が欲しいそうです」
「次」
「胸の大きい栞が欲しいなんて言った事もありましたけど、その日は東京湾に沈んでもらいました」
「はぁ……駄目ね。何も思い浮かばないわ」

 安心して下さい。こっちもハナっから下等生物なんて当てにしてませんから。いちいち気に掛けてたら、こっちまで退化してしまいますしね。

「あ、そうだお姉ちゃん。お金貸してくれませんか?」
「何、足りないの? いくら」
「五十万ペリカ」
「……あんた、一日外出券なんか買ってどうするのよ」

 しかし、困りました。一体何をプレゼントしたものでしょうか。私のバージンは既にあげてしまいましたし、後ろの初めてもとっくに捧げてしまいました。これ以上、あの方は何を望みましょうか。赤ちゃん? 結婚? はて、そんなのとっくに心の準備おっけいですのに。
 『私をあげる』じゃ芸が無いですし、『世界の半分をお前にやろう』ではゲームオーバーですしね。『一日お兄ちゃん券』はもう使いましたし、『気に食わない奴にサテライトキャノン券』は斎藤さんに直撃でしたし。ああ、どうしたものでしょう。

「……ま、明日になって考えましょうか」

 幸いパーティは夜になってからなので、それまでは商店街で物色する事も出来ます。そこで何か見付ければ良いでしょう。
 そうと決まれば、もう夜は遅いので眠る事にします。
 夜伽の為にお姉ちゃんをベッドに引き摺り込んで第九ラウンドまでさんざっぱら嬲り尽くした後に、私は深い眠りの淵に誘われて行きました。




 翌朝、私は快楽に溺れてだらしなく涎を垂らしながら虚ろな瞳をしているお姉ちゃんを放っておいて――もちろん縄で縛ってスイッチ(何の?)を入れたままで――我が家を後にしました。
 吹き抜ける風が心地良いです。この時節には珍しく暖かな小春日和でした。こうなると自然に心も浮き立ってきます。スキップしながら、私はサティポロジャビートルの腸の筋を乾かして編んだ波紋の伝達率の高いストールを翻して商店街に向かいました。
 さすがに師走の候、商店街には活気が溢れています。今日がイヴと言うのもあって、子連れの主婦が多いです。道に屹立する木にはイルミネーションで飾られ、一層聖夜と言うムードが漂っていて素敵でした。浪漫ちっくです。こんな街中を夜に祐一さんと歩けたら最高です。うっとりしちゃいます。当然、その後はラブホに直行、お泊りで。
 おっと、話が脱線してしまいましたね。
 パーティが始まるのが午後七時。現時刻が午前十時。残り九時間で目的の物を探さなければなりません。予算は、同人誌のギャラがありますので大枚はたいてもノープロブレムです。
 さて、どうしましょうか。


しおりん分岐

1.八百屋に行く
2.量販店に行く
3.サテライトキャノン発射


 ……悩んだ結果、私は八百屋に行って大根を買いつつ、量販店を冷やかして、最後に宇宙に向けてサテライトキャノンを放ちました。天空に浮かぶ月に穴が空いてしまいましたが、ヴァッシュよりも小さい穴ですので勘弁してもらいましょう。
 で、結局良い物は見つかりませんでした。
 いよいよ切羽詰って来ます。まさかプレゼントを選ぶのがこれほど難儀なものだとは思いも寄りませんでした。恋愛SLGならば迷わず相手の心の一番深い所にナイフを刺す事の出来るプレゼントを的確に選べるのに、事が現実に至っては、私は無力な少女です。
 世間に負け、うな垂れて歩く私の目に、とあるお店の風景が飛び込んで来ました。玩具屋、でしょうか。店頭にはカードダス販売機(騎士ガンダム聖機兵編)があったりガシャポン(ガンドランダー編)があったり、なかなか小洒落た店先でした。ショーケースの中にゴールドライタンシリーズが飾ってあるのもポイント高いです。そして店内から漏れて来るBGMは『初めてのチュウ』。惚れてしまいます。
 意外でした。まさかこのような穴場が近所にあろうとは。
 好奇心に負けて、お店に入ろうと重心を前に傾けた矢先に、その声は聞こえました。

「あれ、栞ちゃん?」

 振り向くと、そこには小さな女の子がいました。彼女には見覚えがあります。祐一さん争奪戦で私に敗残した負け犬うぐぅ、月宮あゆさんです。こんなチンクシャななりをしておきながら私よりおっぱいが大きいと言う時点で、殺意が芽生えます。その感情を原動力に私はインフィニティ・シリンダーやトリプルメガソニック砲を駆使して彼女を亡き者にしようと度々実行に移しているのですが、なかなか事は上手く運ばないもので、気が付いたら彼女は微生物のように単為発生しているのが現状です。

「こんにちわ、あゆさん」
「どうしたの、栞ちゃん。こんな所で」
「えっと、祐一さんへのプレゼントを買いに」
「プレゼント……? あ、今日クリスマスイヴだもんね。橋の下で暮らしてるから日にち感覚が狂ってたよ」
「狂ってるのはあゆさんの大脳でしょう」
「えへへ、そんなに褒めないでよ〜」

 どうやらこのアマ、テンパってるようです。とうとう日本語すら理解不能に陥りましたか。ま、怪生物うぐぅには相応しい末路です。せいぜい現代の破壊され尽くした言語で一生を過ごしなさい。

「で、何を買うの?」
「それがまだ何も。あゆさんは、何をあげれば祐一さんは喜ぶと思いますか?」
「タイヤキ!」

ごきん♪

「……栞ちゃん、効果音に♪を付けるのはどうかと」

 首が540度曲がったまま、あゆさんは健気に微笑みます。どうやら首を捻られる瞬間に自ら頚椎を外したようです。凄いものですね、中国拳法と言うのは。

「誰もあゆさんの好物なんて聞いちゃいないんですよ」
「宇愚雨〜」
「もっと建設的な意見、ティーチミー」
「UGU〜」

 暫く唸ったあと、うぐぅさんはぽん、と可愛らしくミトンを鳴らしました。

「裸で迫るってのはどうかな?」

 ……このクズ、ウチのクズと思考回路が一緒です。どうしようもありません。まさに昆虫より生きていても意味が無い存在。

「あゆさん。脳内白痴度が進行している所を申し訳ないんですが、とっとと失せてくれませんか?」
「うぐ? 栞ちゃん、急ぐの?」
「ええ。今日の七時までに決めなければならないんです」
「う〜ん……じゃあ、手堅く服なんてどうかな?」
「服……ですか?」
「うん。いつも使ってもらえるから、その度に栞ちゃんがくれた事を思い出せるでしょ?」

 これはこれは、まさかこのボケの口からそんなマトモな言葉が出るとは思いませんでした。まさにうぐぅはSSより奇なり。棚から牡丹餅。縁側に出て桜餅。

「そうですね。ありがとうございました。参考になりました」
「うん。祐一君と仲良くね!」
「はい」

 あゆさんはぶんぶんと手を振ると、賑やかな商店街の中心部へと走り去って行きました。その背中は少し物悲しくもあり、心細げに見えました。
 それでは、ちょっと遠いけど洋服屋さんに行きましょう。
 ボソンジャンプ。
 はい、着きました。目の前にはめちゃ掛けハンガーに掛けられた何着もの服。ジャケットあり、トレーナーあり、コートあり、カジュアルシャツありととにかく選り取り緑深緑。
 とにかく、お店の中に入ってみる事にしました。

「……いらっしゃい」

 足を一歩踏み入れるなり、そんな無愛想な声が耳に響きました。

「あれ、舞さん?」
「……栞」

 学校の先輩、川澄舞さんでした。先輩と言っても彼女は既に卒業してしまって大学生さんなのですが。綺麗な人です。おっぱいも大きいし、髪も長くて柔らかそうだし、私の目標です。いつか肉奴隷にして私無しでは生きられないようにしてみたくもあります。

「アルバイトですか?」
「はちみつくまさん。佐祐理へのクリスマスプレゼントの為に、もうひと踏ん張り」

 イヴにまでバイトしては手遅れだとは思いますが。

「栞は、どうしたの」
「あ、祐一さんに似合いそうな服を探してるんです」
「……プレゼント?」
「はい」

 ちょっと恥かしいですね。公の間柄とは言え、改めて祐一さんとの関係を口に出すと顔が赤くなります。

「何かオススメの逸品はありませんか?」
「ん……これは? ネスツ製スカートアーマー、二着セットで3980円」
「わ、素敵ですね」
「斬風燕破は三種類どれも使用後の硬直が長いから気を付けて」
「で、STロンと同時に白羅滅精ですね?」
「はちみつくまさん」

 スカートアーマーの片方はイグニス用でソードチェーンまで付いていました。これはお得です。早速購入しました。両腕にずしりと重い質感、さすがネスツ製ですね。あのフザケた防御力も再現されていそうで楽しみです。

「ところで舞さん」
「何?」
「このお店の有線放送」

生まれてる〜喜び〜♪ 慈しむ心を〜♪
緩やかに〜育てて〜♪ 傷口を〜癒そ〜お〜♪
ターンAターン♪ ターンAターン♪ ターンA〜♪

「……好きなんですか?」
「……明日佐祐理と一緒に行く西城秀樹クリスマスディナーショーで歌って欲しいと思う」

 いや、それは流石に無理なのではないでしょうか。アニメの曲ですしね。子門真人だってコンサートでいきなり『からくり剣豪伝ムサシロード』のOPテーマ『ムサシ!BUGEI伝!!』を歌い出したらお客さん引くでしょう?
 ともあれ、これで祐一さんへのプレゼント問題は片付きました。舞さんにお礼を言って、私はお店を後にしました。




「あれ、栞ちゃんじゃない」

 道行く私を呼び止める声。聞き覚えのある声なので振り向くと、そこには一人の女の子が立っています。

「更紗ちゃんじゃないですか」

 更科更紗ちゃん。私の大親友です。一年生の時に一日だけ仲良くなったのですが、私が持病で已む無く入院と相成り、二年生になってようやく再び交流が持てました。それ以後、彼女と私は大変懇意にしているのです。可愛いですしね、彼女。まだ処女ですし。当然、私が頂く事になるのでしょうが。
 ところど更科更紗ってしつこい名前だと思いませんか? アマンダラ=カマンダラとかギャブレット=ギャブレーとかハッシャ=モッシャとかライラ=ミラ=ライラとかローラ=ローラとかと同じフレーズですね。ま、平平平平(ひらたいらへいぺい)なんて名前よりはマシですが。

「どうしたの、栞ちゃん。お買い物?」
「ええ。クリスマスプレゼントを買いに」
「あ、ひょっとして相沢先輩?」
「はい♪」

 ジャイアンが心の友よ〜と叫ぶくらい仲の良い私達ですので、更紗ちゃんは私と祐一さんが結婚を前提にお付き合いしている事を知っています。何やらコミックスでは更紗ちゃんと祐一さんが廊下で話してましたし。ゲームにはその場にいなかった名雪さんまでいましたけど。
 ところでコミック版Kanonの私のお話で名雪さんと私がアイス食べてましたけど、あの『ザ・カップ超バニラ』って実名出して良いのでしょうか。ゲームでさえポテトチョップスになってたのに。

「更紗ちゃんも、もしかしてプレゼントですか?」
「うん。お兄ちゃんに」

 出ました。更紗ちゃんの『お兄ちゃん』。実は彼女、近親相姦に憧れているそうで、いつか自分も兄に初めてを奪われたいそうです。さすが我が朋友、思考回路が常人のそれではありません。上杉家の傍系なんでしょうかね?

「で、何をプレゼントするんですか?」
「う〜ん……一応、ガラナチョコとコデイン買って来たんだけど」

 媚薬と麻薬ですか。一体何処のシンジケートに乗って来たんでしょう。末端価格がどれくらいか興味ありますね。
 考えるに、媚薬で奮い立たせた後にアッパー系で共に昇天するつもりなのでしょう。ふむ、良い判断です。今度私も祐一さんにやってみましょうか。

「あ、もうこんな時間。栞ちゃん、またね」
「はい。お兄さんとお幸せに」
「やだぁもう! 照れちゃうなぁ♪」

 彼女もなかなかテンパってますね。幸福ここに極まれりと言った表情で駆け抜けて行きました。
 さて、もうすぐ時間ですので祐一さんのお家に向かいましょう。





「で、栞」
「はい」
「これでどうせいと?」
「相手を切り刻んで下さい」

 祐一さんは大変喜んでくれたようで、ねちっこいほどの疑惑の眼差しを送って来ます。そんなに見つめられたら、私照れちゃいます。
 水瀬さんのお宅では、既にパーティが開かれていました。食卓からはみ出んばかりの彩り豊かなお料理。それを名雪さんと秋子さんと真琴さん、そして私と祐一さんが囲んでいます。

「名雪さんには形状記憶イチゴを差し上げます」
「わ、ありがとだお」
「気を付けて下さいね。早く全部食べないと細胞分裂の如く加速度的に増殖しますから」

 ま、名雪さんなら三日もせずに食べ終わるでしょう。ユーラシア大陸の総面積分のイチゴ程度ならば軽いものです。

「真琴さんにはDXガードラー&ターボユニットです」
「あぅ?」
「こう、手と足に付けて……はい、スイッチオンです」
「あぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」

 真琴さんは音速の壁を超えて、ついでに家の壁もブチ抜けて彼方へと走り去って行きました。さすが新生ターボユニット。ポセイドンを捉えただけの事はあります。

「秋子さんには化粧品を差し上げます」
「あらあら」
「これでせいぜい時の流れに抗う無駄な努力をして下さいね、オ・バ・さ・ん」
「あらあら」

 殺気。瞬間、私は名雪さんをひっ掴まえて前方に差し出しました。すると、寸分の狂いも無く彼女の眉間に秋子さんのメガビーム砲が突き刺さり、いささかの慈悲も無く発射されます。零距離メガビーム砲。因みに私はしゃがんでいたので一切の被害はありません。名雪さんは頭部を吹き飛ばされていますが。しかし名雪さんも、今わの際に発射したミサイルで秋子さんの頭部を破壊しています。これでEXAMマシンはあと二つですね。

「じゃあ、俺から栞に」

 そう言って、我が最愛の男性は私の手を取り、手の平に小さな包みを乗せました。赤いリボンで包装されていてとても可愛らしいです。祐一さんの瞳を覗き込んで、彼が頷くのを確かめてから、私はその包みを開けました。

「……祐一さん、これ……」
「あー。その、何だ。将来の為にな」

 それは小さな指輪でした。プラチナリング。飾り気は乏しいですけれど、すっきりとしたデザインで私好みです。
 指輪。将来の為。それはつまり――

「祐一さん……とってもとっても嬉しいです」
「バイト代の三ヶ月分だからな。大事にしてくれよ」

 祐一さんはリングを摘まみ、私の指にそっとはめてくれました。
 勿論、左手の薬指に。

「祐一さん」

 彼の胸に身体を預け、見上げます。祐一さんの瞳に、私が映っていました。信じられないほど頬が赤いです。私の瞳にも、照れている祐一さんが映っているんでしょうか。
 彼の首に両腕を巻き付けて、下を向かせました。その勢いで、優しく唇を重ね合わせます。とっても甘いのは、さっき食べたケーキのせいではないでしょう。
 夢心地のまま、私は大胆にも祐一さんの唇を割って舌を潜り込ませました。そのまま、情熱的に舌を絡めます。この胸のときめきを全て吐き出すかのように。舌と舌とのスキンシップを存分に堪能した後、ゆっくりと唇を離しました。つつつ、と唾液が糸を引いて少しいやらしいです。
 今なら、言える気がします。
 私は祐一さんを抱き締めたまま、彼の耳にそっと囁きました。

「実は私、先々月から……『アノ日』が来てないんです」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」

 もう、鈍感な殿方ですね。

「生理が来てないんです」
「なっ、えっ、ちょっ、それって……」
「はい♪ 祐一さん、パパになったんですよ♪」

 あ、燃え尽きてます。真っ白に。眼前に手をひらひらと翻しても反応がありません。瞳孔が開いています。

「祐一さん。来週にでもウチの両親に会って下さいね」
「まぢか!?」
「まぢです。あと、式場も確保しなければなりませんし、招待状も沢山書かないといけませんし、新居も構えなければなりませんし、あと市役所に書類を提出し――」

 ふふっ。これで名実ともに、私は祐一さんの奥さんです。誰が何と言おうと、私達は比翼の鳥、連理の枝。輪会は離れずつがい雛です。一生他生問わずに絶対に離しませんよ。



 幸せな家庭を作りましょうね、あ・な・た♪









じ・えんど☆





うに。あとがきだかなんだか(©ねこ様)

はい。クリスマスSSです。
毒です。猛毒です。ヴェノムです。ラムダ・ドライバです(謎)
今回初めてしおりんの視点なのですが、彼女のアタマん中はこんなもんです。
何か最終回っぽいですが、これもまた一つの終わりの形って事で。
かっちのSS世界は幾つにも分岐していますので、きっと何事もなかったかのようにしおりんは続きます。
因みに、今回のネタが十割解った方には、かっちから罵声をお送りします。
そんなもん覚えてる脳の隙間があったら勉強せぇやボケが、って。
今回が最後の贈り物になるでしょうが、ご容赦を。
かっちは来たる締め切りまで必死こいて投稿用をタイピングします。
で、華々しく散る予定。そしてその作品を復活したHPで晒しageします(ぉ

それでわ。めりぃくりすます、ふぉーぜむ。