超時空氷菓子娘しおりん劇場版

アイス・おぼえていますか。

後編


書いた馬鹿  かっち@風前の灯火





































夢。































夢を見ている。




























毎晩見る夢。





























世界の終わりを暗示する夢。






























東京ゲームショウ2001。





























ナムコの新作ブース。
































黒山の人だかりのその向こうには。
















































ワッハマン。












































悲しかった。































何ヶ月も前からファミ通で謎のヴェールに包まれていたゲームがこれだった。































悲しくて。





























泣きたくて。































ナムコの株が今期大暴落して。































大株主が暴動を起こして。































今さらあさりよしとおなんていらなかったんだ。























































実はサキエルとシャムシエルとゼルエルのデザイン担当だったなんて。

































「でもワッハマン、前半はギャグなのに後半は驚くほどシリアスですよね」
「そうだな。特にイシュタルなんて幼女に化けてたからな」

 個人的には前半の食欲に赴くままに浮浪するワッハマンが好きだったのだが。何か読んでいて、奴が食う物は何でも美味そうに見えるんだよなぁ。エビフライとかカロリーメイトとか海亀ラーメンとか。

「ところで祐一さん」
「何だ?」
「前編から続いてるこの夢、一体誰が見てるんですか?」
「いや、かっちがたまに見るらしい」

 筆者の夢はなかなかぶっ飛んでいるものばかりだ。例えば駐車場でヒバゴンに追い掛けられる夢とか、自分の部屋の二段ベッドから颯爽と降りて来た人造人間18号に殺される夢とか、DIO様に吸われる夢とか。どうもかっちの家系は妙な夢を見る事が多いらしい。父親はコーヒーを平皿で優雅に飲む夢だとか、長男は虫に蒸し殺された夢だとか、次男に至っては自宅の商店にレーガン大統領が大根を買いに来る夢を見たらしい。我が兄ながら何と素敵な。
 それはさて置いて。
 今、我々は前回のゲームセンターから出て、一路この街の名物甘味喫茶、ハンドレッドフラワーショップ……もとい、百花屋へ向かっている。マイフェアレディの栞のリクエストで甘い物を食べに行くらしい。きっとそこでもまた絶対に厄介な事があるんだろうなと思いつつも、栞の可愛らしさに抗う事が出来ずにいるのが実情である。

「しかし栞」
「はい?」
「さっきアイス食べてたのに、まだ食うのか?」
「アイスと甘い物は入る所が別なんですー」

 ってかアイスも甘いだろ。

「太るぞ」
「大丈夫です。今は二人分の栄養を取らなければなりませんから」
「ふ〜ん……って二人?」
「はい」
「誰と誰?」
「私と、お腹の中の赤ちゃんです」

 そうか、お腹の赤ちゃんか。それは沢山食べないとな。そうか、とうとう栞にも赤ちゃん、が……!?

「っておい!」
「何ですか、騒々しい」
「赤ん坊!? まさか」
「はい、私と祐一さんの愛の結晶です♪」
「まぢ!?」
「う・そ♪」

めきょ。

「……祐一さん、実力行使は倦怠期への第一歩」
「じゃかぁしゃあ、このアイス既知外がぁ!」
「えぅ〜。良いじゃないですか。いずれそうなるんですし、予行演習と言う事で」

 いずれそうなると言われれば俺も否定は出来ない。将来は栞と一緒になるつもりだし、二人の間に子供も欲しい。が、問題は、である。二人の子供は一体どっちに似るのかと言う事だ。もし俺似なのであるならば、この捻くれた性格を受け継ぐ事になる。それは男の子であれ女の子であれ、その子の人生にとって大なり小なり悪影響を及ぼすであろう。が、しかし。もし栞に似てしまったら?
 想像してみる。

『パパ〜』
『おう、どうした?』
『しゃいにんぐふぃんが〜♪』
『はっはっは、溶断破砕マニピュレーターにはまだ早いって言っただろ?』
『だいじょうぶだよパパ、たーんえっくすはたーんえーのかんしやくだから♪』


 …………嫌過ぎる。性格が細胞レベルで破綻している栞の遺伝子が顕現すると、確実にこんな子供になるであろう。きっと生まれながらにしてサテライトキャノンなどの各決戦兵器を引き継ぐに相違ない。これで親子喧嘩なんかが起きた日にゃ、自衛隊が出動するかも。そうなれば黒歴史だ。
 父親に似ては捻くれ者、母親に似ては世紀末覇王。どちらに転んでも残念ながら平穏と言う名の未来は拓けない。∀だって時代を拓けるはずだと言うのに、俺達の子供にはまともな未来がないのだ。少し悲しくなった。
 突然変異でどちらにも似ていなくて、木村先生の奥さんみたいに天使のような子供が生まれてくるのを祈るしかないのだろうか。

「どうしました祐一さん」
「いや、純粋に俺達の子供に憂いていただけだ」
「大丈夫ですよ。最近は遺伝子工学が発達していますから。その気になれば羽根が生えている赤ちゃんだって人工授精出来ますよ?
「それは人間かっ!?」

 そんな夫婦漫才を街中でかましていると存外にウケたらしく、道行く人がわざわざ立ち止まってお捻りを投げて寄越してくれた。お陰で思わぬ臨時収入を得られ、百花屋のオーダーにも幾分余裕が出来たが、それがまた悲しかった。
 こんなんで生計立てたくないぞ俺は。

「では祐一さん、レッツゴー三匹です!」

 一人足りないぞ。
 などと突っ込む気力もなく、俺は恋人に引き摺られるままに約束の地へ――
 向かうはずだったのだが。

うぐうぐうぐうぐうぐうぐうぐうぐうぐうぐ〜っ!!

 何処からともなく謎の怪音が聞こえて来る。それが鼓膜を震わせ、俺はこの上ない悪寒に身を竦ませた。こう言う場面でこのような音が聞こえると言うのは、十中八九俺が何かに巻き込まれる状況に置かれていると言う事だ。加えるに、この音の内容。「うぐぅ」なんて鳴き声の畜生は俺の知る限り、今までの人生の中で一匹しかいない。

「あ、祐一さん。あそこ」
「みなまで言うな」

 辟易しつつも得体の知れない脅迫の念に晒され、栞の指し示す先を視界に入れる。
 案の定、そこには今まさにこちらがゴールとばかりに爆走して来る単細胞生物、ウグゥ・ザ・デストラクティブカーニバルがいた。しかもご丁寧に両脇に溢れるほどのタイヤキを抱え、おまけに口には見えるだけで五匹分のタイヤキの尻尾が覗かせている。恐らく口内にはあれの三倍の量は優に放り込まれているであろう。
 まあ、それだけでは俺は別に奴を拒む理由はない。それだけでは。気にすべきは、そのタイヤキは何処から、どのような手段で手に入れたか、だ。

「うぐぅっす! 祐一君、こんにちわっす!」

 うむ、最近は挨拶にバリエーションが増えて来たか。さすが芸人。
 などと感慨に浸っている場合ではない。
 極力相手にしたくない相手――月宮うぐぅに、糸屋の娘は目で殺すとばかりに眼光鋭く見つめる。良く良く見れば、うぐぅの背中のリュックには羽根が増えていた。そう言えば前に「熾天使にクラスチェンジしたんだよ」とか言っていたからな、その為の六枚の翼なのだろう。これで「舞えよ、T−LINKフェザー」とか奇跡掛けて幼稚園児を切り刻んでいた事もあったし。

「どうしたんですか、あゆさん」
「うぐぅっす! またガードのなってない店をアサルトして来たっすよ!」
「また食い逃げかお前は。この間、当たり屋して資本家から大枚せしめたとか言って羽振りが良さそうだったじゃないか
「うぐぅっす! YESそうご電気の株を全部買ったら大暴落して文無しっすよ!

 ……確か今、一株37円くらいだったな。哀れ、先を見通す才能のない期間投資家よ。

「栞ちゃん達はまたデェトっすか?」
「て言うかお前、その喋り方やめい」
「うぐぅ。解ったよ」
「あ、私ちょっと気に入ってました」

 大変和気藹々な我らだが、忘れてはいけない。今、うぐぅはタイヤキ窃盗の罪で英国タイヤキ騎士団、通称ウグシングに追われている事に。

「今から掴まえに行くぜ。小便は済ませたか? 子門正人にお祈りは? 部屋の隅でうぐうぐ震えて命乞いをする心の準備はオーケイ?」

 ほら、言わんこっちゃない。元ウグシング食い逃げ処理係、ウォルター老がモノフィラメントワイヤーを片手に追って来ている。さあどうする、うぐぅ。
 と、横にいる食い逃げ犯人を窺うと。

「楽しい! こんなに楽しいのは久し振りだ! さあ追い掛けっこはこれからだ! お楽しみはこれからだ! 早く(ハリー)! 早く早く(ハリーハリー)!! 早く早く早く(ハリーハリーハリー)!!!」

 とても嬉しそうだった。って言うかだんだんこいつの脳味噌を疑いたくなって来たな。

「楽しそうですね、あゆさん」
「うん、楽しい。とても楽しい。食い逃げだよ、考えてもみなよ栞ちゃん。きっと血みどろの食い逃げになるに違いない。素敵でしょ? 食い逃げ、食い逃げだよ」

 大佐かお前は。
 その後、あゆはウォルター老が放つ鋼糸に右腕をもがれながらも闘争……もとい逃走した。その顔は最後まで喜びに満ちていたのだった。





「それはさて置き、百花屋に着きました」

 解説ありがとう、マイラバー。
 眼前に広がるのは、恐怖のマイクロウェーブ送信喫茶店(しおりん本編参照)、百花屋。前回のようにGビットは襲って来ないだろう。栞がサテライトキャノンを持っている限り。と言う事は、俺は一人じゃこの店に入れないのか。例えるならあれだな、本日開店の食事処に「一見様お断り」って張り紙がされているくらいの悲しさだな。ってかどうやって入るんだそんな店。
 話は逸れたが、百花屋。

「んじゃ、入るか」

 意気揚々としてドアノブに手を掛けた瞬間。何か違和感を感じた。何事かと思い、ノブを回してみるも、びくともしない。右にも左にも、応答がない。引いても押しても言うに及ばずだ。力を込めてこじ開けようとするも、満足な結果が得られずに終わってしまう。
 これは、何だ?

「どうしたんですか?」
「いや、開かないんだ」

 念の為、制服の内ポケットに用意していた輝聖石を使用した羽根を眼前に五芒星を象って配置して、破邪の法で増幅したアバカムを放っても開門させる事敵わなかった。と言う事は、この扉はバーンプレスの門よりも堅牢と言う事になる。俺如きの力では開かないはずだ。
 って言うか、客が入れない喫茶店って何だよおい。

「解りました、私が代わりましょう!」

 そう高らかに宣言すると、栞は羽織っていた自慢のストールをなびかせて、眼前に晒した。その表情は全き自信に満ち満ちていて、まるで自分がそう決めた事なら世界もまたそうである、と言った少なからず独善に彩られたプライドだ。
 そうしてストールを右腕に巻き付けた刹那――

「鎧化(アムド)ッ!」

 鎧の魔槍だった。極めて柔らかく肌触りのめでたいストールが、今は一転してその面影が寸毫も垣間見れないほど硬質化して栞の滑らかな白い淡雪のような肌をあらゆる外敵を拒む鎧となっている。因みに栞が手に握っているのは陸戦騎ラーハルトご自慢の槍。
 男物の鎧なのに栞に違和感なく装着されるのは、ひとえに彼女の胸が薄いからに他ならない。例えばこれが名雪であるならば、バストの窮屈さにそもそも装備出来ないであろう。洗濯板がここに至っては幸いしたと言う事だ。

「さあ、いっちょ派手にブチ壊しますよ!」

 とても嫌らしい微笑みを湛え、栞は槍を構える。
 ……と。ふと気になった。

「……なあ、栞」
「はい?」
「ひょっとして、ストールとハーケンディストールを掛けてるのか?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「フラッシングランサーっ!」
「おわぁぁぁっ!?」

 突然、栞がクンダリーニを発現させて光速を超える無数の突きを放って来た。生憎と俺はカプリコーンのシュラからエクスカリバーを受け継いではいないので槍を叩き折る事は出来ず、仕方がないのでトレーズ様のように華麗に躱しながらビームサーベルで切り払った。

「えぅ〜。ネタばらしは終身刑です〜!」
「お前の存在自体がネタだらけなんだよっ!」
「ううう……そんな事言う人孕ませます〜」
「良いからはよ扉を開けろ。何か秘策があるんだろ」
「……仕方がありません。これだけは秘中の秘だったのですが」

 まだ秘があったのかお前は。
 と、心の中の突っ込みにも当然の事ながら意に介する様子もなく、栞はまた何やら胡散臭げな呪文を詠唱している。聞き耳を立ててその呟きを拾ってみると、

「カンダ・ロエストラタ・アマソトス・イグエラトス・イグアレッツ――」

 夏凰翔か? バイオギミックか? 早く摩陀羅を再開して欲しいな、大塚英志氏。

「アノクタラ・サンミャク・サンボダイ――」

 今度はレインボーマンかよ。
 月の化身の特殊能力の『ナイフに刺されても死なない』ってのは特殊能力か? しかも何故ナイフ限定なのだろう。
 栞の詠唱にいちいち反応しているうちに、どうやら事が済んだらしい。栞はきっと強い意志の感じさせる瞳で射るような視線を百花屋に投げ掛けた。
 そして――

「出でよ! ソーラシステムっ!」

 瞬間。
 大気を裂き、雲を割り、蒼空を覆い尽くすかのような巨大な物体が上空に現れた。長方形を十字に組み合わせたようなその板状の物体は、表面が対象を写し出すくらいに磨かれた鏡であった。
 ソーラ・システム。
 一年戦争末期、ジオン軍の宇宙要塞ソロモンに対して使用された対要塞兵器である。四百万枚を超す鏡が、それぞれ太陽光を反射、そしてその反射光を一点に集め、目標物を溶解させる。原理自体は『アルキメデスの鏡』として知られる凸面鏡と同じだが、その規模が桁違いなゆえ、その効果も絶大なものである。
 それが今、栞の呼び声に応えて上空に漂っていた。

「発射ですっ!」

 世界が光に包まれた。
 ソーラシステムが制御母艦から送られたデータを元に、太陽光を百花屋の扉に一点集中させる。焦点温度数万度の光の奔流が寸分の誤差もなく目標に照射された。
 さすがに少しやり過ぎでは、と思う。

『百花屋正面扉、融解っ!!』
『敵の主砲か!?』
『メガ粒子の反応無しっ!』
『馬鹿な、レーザーとでも言うのかっ!?』


 ……聞こえる、何か聞こえる。一体百花屋とは何なのであろう。この街に来て大分時が経ったが、未だにここには謎が多いようである。
 十数秒のソーラシステム照射の後、すっかり溶けて無くなった扉。

「さあ祐一さん、入りましょう」

 はい。もう何も申しませんとも。
 しっかり尻に敷かれている事を自覚しながら、俺は栞に手を引かれるままに多少周囲の温度が高くなった百花屋へと入店して行った。




「さ、何を頼みましょうか」

 出されたツメシボ(冷たいオシボリ)で手を拭きながら恋人が問うて来る。

「ん〜。甘い物はあまり欲しくないな。何か軽食系でお勧めのものはないか?」
「そうですね」

 ん〜、と唇に人差し指を当てるお決まりのポーズを取る。栞の考える時の癖で、俺が彼女の仕草の中で最も愛おしく思う瞬間だ。何と言うか、こうムラムラっと来て所構わずバックから鬼のように突き上げたく以下自粛。

「軽食なら、ホットドッグは如何ですか?」
「ん、じゃそれ」

 そうだな。ホットドッグなんて普通に食べる機会が無いからな。せいぜい縁日の屋台で買い食いするくらいだ。たまには懐かしさに浸って食するのも悪くないだろう。

「ご注文はお決まりですか?」
「ホットドッグ一つ。栞は何にする?」
「私はジャミ○フ(ジャンボパフェミックスデラックス)を一つ(©玉川おにぃ様)」

 また栞は例のメニューである。3500円もする魔性のパフェ。この四人前相当のデザートを彼女は一人で平らげてしまうのだ。いや、正確には五分で飲むだが。どうやら俺達が初めてここでデートした時のしおらしい態度はポーズだったようで、互いに知り尽くした今では何の遠慮も呵責もなしに生来の本性を出して来る。その最たるものが、先ほどの超兵器やサテライトキャノンである訳だ。
 ふと、考えてみる。
 俺、こいつの何処が好きになったんだろう。

「どうしました、祐一さん」
「いや、何で俺、栞と恋仲になったのかな、て」
「……ますか?」
「ん?」
「……後悔、してますか?」
「ああ、そう言う事じゃないんだ」

 確かに所構わず人災を振り撒くのは勘弁願いたいが、この街の住民もそれに既に慣れてしまっているのでそれは大丈夫だろう。

「私は」
「ん」
「そう言う理屈は考えない事にしています。恋は理屈じゃないでしょう? 気が付いたら、私は祐一さんを好きになっていました。何処が気に入って、何処が素敵かとかじゃなくて、全部です。祐一さんの全部が大好きです」
「……うん」
「恋ってそう言うものでしょう? 祐一さんは違うんですか?」
「俺も、同じだろうな。多分、そう……何となくだな。何となく栞が気になって、何となく一緒にいて、何となく好きになった」
「ふふっ。動機としては充分過ぎますよ」

 そうだな。深く考える必要はないんだ。どうしてこうなったかは死ぬ間際にでも考えれば良いし、今はこの掛け替えのない一時を満喫していればそれで良いのだろう。何か、柄にもなく悩んでしまったな。

「お待ちどうさまでした」

 と、ウェイトレスが二人の間を割いて料理を運んで来た。今の俺達の会話を聞かれていたらしく、少しくすくすと微笑んでいた。とても恥かしかったが、その微笑は俺達を祝福しているようであったので、感謝の念も湧いた。

「それじゃ、頂きましょうか」
「そうだな――ってちょい待ちぃ」
「どうしました?」
「何だ、これ」

 自分の前に置かれた皿の上の物体を指差す。
 彩り豊かな模様の皿に鎮座している場違いなほど黒々しい謎の食物。気のせいか、身近な動物の形に似ているような。四肢があるような。これは口だろうか。更に頭に相当する部分に耳のような突起があるような。

「ホットドッグですよ」
「……これは世間一般では犬の丸焼きと言うのではないか?」
「ですから、ホットなドッグでしょう?」

 HotDog。
 温かい犬。


「……なあ、栞」
「はい?」
「捕鯨みたいにグリンピースに何か言われないのか、この店」
「大丈夫です。ここ、NGOの手からは上手く逃れているみたいですから。それに」
「それに?」
「政府と癒着してますから、幾らでも揉み消せますよ」

 どうやらこの店は非合法擦れ擦れで経営しているらしかった。ならば自動防衛システムやバーンプレスよりも強固な扉など過剰なセキュリティも頷ける。と言うか喫茶店としては既に下の下である気がするが。

「中国産の赤犬を調理しているそうですから、美味しいと思いますよ」

 となるとこの大きさはチャウチャウだろうか。あの愛くるしい姿を想像して、一気に食べる気が萎えた。何と言うか、某御大将に言わせれば死を意識するからこそ生きる事が実感出来る、みたいな。

「ん、美味しい♪」

 当の栞はアイスを口に運んでご満悦の様子なので、それが救いと言えば救いだったが。
 結局俺は最後までホットドッグを食べる勇気が湧かなく、そのまま残してしまった。




 店を出ると、辺りはすっかり茜色に染まっていた。開けた目の前を見ると、今まさに尽きようとしている落日を目の当たりにする事が出来る。燃えるような夕陽に、俺達も完全に風景の一部になっていた。正直、綺麗だった。世界の終わりを暗示させる日没なのに、それがどうしてか堪らなく魅力的なものに感じてしまうのは、少なからず物事の消える瞬間と言うのは一様にして生きた証とも言えるべき輝きを放つからなのであろう、とか何とはなしに思ってしまう。それもこの夕陽がそうさせる感傷なのだろう。

「素敵ですね」
「そうだな」

 栞も素直に感動していた。長い闘病生活を経てこうして生を実感出来るようになった彼女は、かつての自分を落日の光景に投影しているようでもあった。

「そう言えば祐一さん」
「あん?」
「今日は付き合って頂いてありがとうございました」
「こちらこそ」
「お礼、まだでしたね」

 栞が俺の正面に立つ。頭一つ分低いので、栞は上目遣いに俺の瞳を覗き込んでいた。
 俺は栞の瞳の中の俺を見つめ。栞は俺の瞳に映る自分自身を見据え。それは互いの瞳と言う薄い鏡を通して相手の中にいる自分を認識する行為に他ならなかった。お互いの大切な人としての自分を。 
 そうして栞はその華奢な身体を寄せて来て、軽く爪先立ちしたかと思うと――

ちゅっ。

 優しく唇を合わせた。
 離れた彼女の頬が紅に染め抜かれていたのは夕陽のせいだけではないだろう。
 恐らく、俺も同様のはずだ。
 恥じらい、はにかむ恋人がとても愛おしく感じ、ここが往来の通りでも構わずに抱き寄せようとした。
 と、その時。

「ぐっ!?」

 全身に刺すような痛みを感じ、為す術なく地面に倒れ込んだ。
 心臓の動機が激しくなっているのを感じる。早鐘のように、しかし機関車のエンジンのように。それに伴い、どっと汗が噴き出して来る。しかし寒い。実に嫌な感触だった。
 これは……何だ……?

「……このリップクリーム、結構効き目がありますね〜。刺激性致死毒配合ですか」

 犯人はお前か。って言うかそんなもん何処に売ってんだ。
 全身の痺れで口はおろか舌すら動かせず喋れない状態で。
 薄れ行く意識の中で、それでも精一杯強く俺は思ったんだ。

 ざけんなボケェ(−−#)、と。

 するとどう言う訳か、脳裏に栞の声が響いたんだ。
 それは天使の歌声のように甘く、慈愛に満ちた母親の旋律のように穏やかな声で。

 オマエモナー(・∀・)、と。



 冬はもうすぐそこまで来ていた。
















激臭……もとい、劇終。


そんなんじゃありませんのだ(−−#)の後書きコーナー(謎)



はい、誰が何と言おうとかっちです。
およそ一月遅れでお送り致しました劇場版後編。
いやあ、一月も書いていないとギャグの間が取り難い取り難い。
皆様の記憶からも薄れているのではとただただ心配。
それでも一応は完結と言う事で。何て言うか、命削ってます。
最近は学校から帰ってきたらパソコンの前にしかいない事に気付き、
これじゃ人としていかんと思って、誠に勝手ながら暫しの休息を頂きます。
悪しからず。

さて。
取り敢えずは残りわずかの春奈っち第一部を仕上げます。年内に。
その後はまぁ……そう言う事で。
それでは、皆様に最大限の愛と敬意を込めて。
皆様のかっちでした。ぺこ。